ティーチィン 「できたてシネマ」

 98年「しんゆり映画祭」の3日目・10月9日には、日本の若手監督のできたての映画を2本、プレミア上映しました。大谷健太郎監督の『Avec mon mari(アベック モン マリ)』と、篠原哲雄監督の『洗濯機は俺にまかせろ』です。この映画たちをプロデュ―スした映画祭の市民ボランティアスタッフは、3人。20才、21才という若い彼女たちが、自分たちが観て、おもしろいと思える作品をプロデュ―スしました。そして、当日は、篠原、大谷両監督と、二人の映画製作に関わりが深い映画プロデューサー・武藤起一氏をお迎えしてのトークが催されました。また、『Avec mon mari』の主演、板谷由夏さんと小林宏史さんも、舞台挨拶に駆け付けてくださいました。お客さまとの、質疑応答の時間が多い、充実した30分間のトークをリライトしました。

 *文中の( )は、こちらで言葉を補ったものです。会話の雰囲気を残したため、読みにくいところもあるかと思いますが、ご了承下さい。

ゲスト:武藤起一(映画プロデューサー)
     大谷健太郎(映画『Avec mon mari(アベック モン マリ)』監督)
     篠原哲雄(映画『洗濯機は俺にまかせろ』監督)


「日常から1〜2センチ浮いた“人間模様”を描きたかった」
「“恋愛会話劇”“密室映画”をどこまで突き詰められるか…」
田口トモロヲさんの名言「『アベック モン マリ』は【アットホームなカサベテス】」
「ジャック・タチが面白かった。何気にちょっとおかしいというところを目指している」
「好きなのは、吉本興業、藤山貫美、エルンスト・ルビッチ」
「“夢をもって出てきた”という感じを出したかったので、大阪弁にしました」
「“小津”っぽく見せないためどうすればいいか、一苦労だった」
「映画自体、音楽的なシンフォニックなもの。だから音楽はいらない」
「隅田川と荒川、江戸川が流れてるエリアはだいたいほとんど見て、決めたんです」
「“男の子よ、元気になれ!”、“男はどっか弱くても強い”っていう映画を撮りたい」
「余すことなく表現できる媒体で、映画ほどのものはない」
「映画が置かれている状況は悪くない。作り続けたい奴は作り続ける。いかなる方法でも」
「一人でも多くの人に“こういう面白い映画があるよ”と伝えてほしい。そこから“映画の未来”が絶対開ける」


●「日常から1〜2センチ浮いた“人間模様”を描きたかった」

武藤:はい、どうも、見ていただいてありがとうございました。これから、あと30分程しか時間がないみたいなんですけれども、ティーチインといういことで、この3人と、客席に残っていただいた皆さんとで、いろいろとですね、今日見ていただいた映画についてのお話をしていきたいと思います。基本的には、これはティーチインということなんですが、皆さんのご質問とかご意見を、たくさん聞きたいと2人の監督は思っていると思うんで、最初にちょっと話をしますけれども、(その間に)なんか聞くことを考えておいてください。というわけで、私、『avec mon mari』 のプロデューサーなんですけれども、プロデュースというのは、実はこれが初めてでして、本業はむしろ、こういう場で、こういう若い監督と、シンポジウムとかトークの司会をやることのほうが、慣れていまして。というわけなんで、僕は、今回はプロデューサーというよりは、司会に徹して話を進めていきたい思います。で、まぁ、大谷監督とは、今回はプロデューサーと監督の関係なんですけれども、篠原監督に関しても、彼もやはり過去に8mmっていうか自主映画つくっていた頃からの知り合いでして、彼は、おととし『月とキャベツ』という劇場用長編でデビューしたんですが、その前に1回、これも劇場で上映されました短編作品で『草の上の仕事』っていう作品があったんですけども、その時に色々と僕が関わったというか、上映を応援とかですね、プロデュース的なこともしました。そういうつきあいもありまして、ちょっと、あんまり他人ではない関係に、2人ともあります。これから2人が、映画の世界で(活躍して)、僕自身がそれを応援している、みたいな立場でもありますんで、そういうところも含めてですね、ちょっと一応、話をまず振りますが、エー、篠原監督。
 

篠原::はい。
 

武藤:いいですか?『洗濯機は俺にまかせろ』に関してなんですけれども、これ作ったの、去年でしたっけ?
 

篠原::今年です。
 

武藤:今年ですね。
 

篠原::はい。
 

武藤:じゃ、まだできたばっかりで。
 

篠原::ま、半年くらいたってますけどね。
 

武藤:ということで。そもそも『月とキャベツ』という作品がおととしありまして、これは、それとは、だいぶ印象が違う感じの映画かなと。いうなれば、なんていうんですか“下町青春恋愛映画”みたいな感じの映画だと思うんですけど、これをやろうと思ったのは、どういうことが一番あったんですか。
 

篠原::、あのー、それは、自分の経緯を辿っていくと、なんだかだいたい『草』にしろ『月キャベ』にしろ、2、3人の話なのでね、もう少し、人間模様っぽく、いろんな人が出てくる映画をいずれは作りたいなぁと思っていたのが一つあるのと、それと『草の上の仕事』っていうのは、草刈やってる労働ムービーなんですけど、その労働ムービーをなんらかの形で次もやりたいなっていうのがあって…。それで、プロデューサーの笹岡さんっていう人から、『洗濯機は俺にまかせろ』という原作があるんだよ、というふうに…。
 

武藤:あっ、原作本があるんですね、これね。小説が…。
 

篠原::そうです。はい。あの木崎という中古電気屋に勤める男の日常には違いないんですが、小説と大きく1点違うのが、“出戻り娘の節子というのがやってきての1週間の話”だというニュアンスが、原作にはない点で。私としては、ある種、その原作の“漂うような時間を描いた話”、の中に、もう一つちょっと大きなファクターを入れたかったんで、節子という人をいれて、何かもう少しドラマチックにしたい、というような感じで始まったわけですね。
 

武藤:うーん。
 

篠原::だからまあ、かねてからわりと人間関係を…。わりと入り組んだ関係を描きたかった、と言っても、『洗濯機』はそんな入り組んでないんですけどね、よくみるとね。なんかこう…。
 

武藤:一応、あれ三角関係って言っていいのかな?
 

篠原::三角関係って言うと…。  

武藤:ではない?ない?
 

篠原::うん。いや、三角関係には違いないスけどね。
 

武藤:うん、うん。
 

篠原::そこにまたもう一人、小林薫さんがからんできていて。『アベモン』を見るとね、そこはやっぱりすごく突き詰めているわけだから…。あの映画のスタイルとは全然違うなっていうか…、でも四角関係じゃないですか。
 

武藤:ま、四角ですね。
 

篠原::こっちも四角といえば四角なんですよ。
 

武藤:あーなるほどね、共通項があるんだ。
 

篠原::あるんですけど、『Avec mon mari』にあるドラマチックなつっこみは、僕の『洗濯機』ではやってないっていう感じなんですね。むしろ彼(木崎)を中心にしてある人間模様っていうような。
 

武藤:筒井道隆くん演じるところの彼を中心にした、そこの界隈っていうかな、その人間模様をこうむしろ…。
 

篠原::むしろ、どっちかっていうと、設定はどこかリアリスティックなんだろうけど、あんまり僕の描き方って、最初にも言いましたけど、なんか日常から1〜2センチ浮いてたいなっていうのがありましてね。どことなくそういう描き方をしていると思うんですけど。
 

武藤:地面に完全にくっついてるリアルさとはちょっと違う、っていうところという意味ですか?
 

篠原::つまりそうですね。なんて言ったらいいんだろう。くっついちゃいるんですけどね。そこをくっついたように見せないっていうことなんですけども。
 

武藤:うーん何か難しそうですね。
 

篠原::いやいや。だから多少、虚構めいたというか…。うーん、えー。
 

武藤:多少のフィクションの要素が入ってきて、という…。
 

篠原::そうですね。だから何となく、コミカルな部分が多少あったりというような戦略では、やってるんですね。
 

武藤:それが今回の作品。
 

篠原::そうです。はい。
 

武藤:ということですね。はい。


●「“恋愛会話劇”“密室映画”をどこまで突き詰められるか…」

武藤:じゃあ、大谷監督にもささっと聞いちゃいます。やっぱり、僕はよく知ってるんで、なんかわざとらしいんですが、一応「なぜ、こういう話を作ろうと思ったか」ってところを、ちょっと話して下さい。
 

大谷:えっと、武藤さんと出会ったのが、88年のPFFで。
 

武藤:そうですね
 

大谷:『青緑』っていう作品…。
 

武藤:88年に入選してるんですね、で、篠原監督が89年に入選してるんですね。1年ずれという、えー。
 

大谷:ええ。でも、年は、一緒。
 

武藤:篠原監督の方がちょっと上なんだな、そうだね。はい、はい、ごめんなさい。
 

大谷:まぁ、その時からのお付き合いというか、その後91年のPFFでまた入選して…。
 

武藤:はいはい。
 

大谷:あの、どこまで喋ればいいですかね(笑)。まあ、そのあたりで武藤さんとのつながりがあって、その後、武藤さんと、何か1本劇場用の映画を作ろうっていう話になりまして。その時に、やっぱり、それまで89年や91年で認められてきたある種の“恋愛会話劇”っていいますか、“密室映画”っていいますか、なんていうか…。
 

武藤:“密室映画”…まあ、要するに男と女がなんだかんだ、ぐちゃぐちゃやってて。
 

大谷:ま、とことん…。
 

武藤:ほとんど室内でも会話で進むっていう。この映画でもそうなんですけど、そういうスタイルが、この人の持ち味みたいなところがあったかなと。
 

大谷:それは、そのまんま系統して、劇場用映画として楽しめるような形に考えていった、っていうのがあるんですけど…。そこからすごくいろいろ脚本書き直したりとか、企画立て直したりとか。二転三転して、ようやく去年、撮影に入れたっていうようなかたちなんですが。
 

武藤:最初の作品っていうのは本当に…。篠原監督も、『草の上』があったにせよ、最初の作品撮るまではやっぱりかなり、時間かかったと思うんですけど。今回の『アベック』の場合は本当にそういう経緯で、ストーリーというか、プロットができてから撮影に入るまで約5年くらいの時間がたっちゃいまして。それは、いろいろ脚本を推敲するっていうこともあるし、やっぱりなんといっても映画を作るにはお金が必要だってこともあるし、そういうことで、(時間が)かかってしまったということがありますけれども。自分(大谷監督)としてはつまり自分の得意な部分をとにかくどこまで突き詰められるかと…?
 

大谷:そうですね。
 

武藤:そういう風なつくりでやった、という感じなんですね。というところで、絶対に時間通りに終わらせなければいけないという厳命が下っておりますんで、早速皆さんの質問やご意見をお伺いしたいと思うんですが、どなたか聞きたいこと…?あっどうぞ、どうぞ、マイクまわしていただけますか?


●田口トモロヲさんの名言「『Avec mon mari』は【アットホームなカサベテス】」

男性客:大谷監督さんにお聞きしたいんですけれど、エリック・ロメールなどはお好きですか?
 

大谷:えーと、よく言われるんですけどー。
 

客:はい。
 

大谷:例えば、エリック・ロメールが好きでそういうスタイルでやるっ、ていうことじゃなくて、なんて言うんですかね、「ある種のスタイルになると、エリック・ロメールっぽくなっちゃう」っていうか。(ロメールは)“低予算で、限られた人間で”、っていう(スタイル)の先駆者だし。全然、意識してませんってことはないんですけど。それはある程度(してます)。(ロメールには)スタイルとして、戦略として、ひとつの完成されたものがあるんで。しかし、エリック・ロメールはエリック・ロメールで、自分は自分でっていうことなんですけど。まあ、原点というか、低予算で成立させる、っていう部分ですごく意識してますけど。
 

客:どうもありがとうございました。
 

武藤:よろしいですか。はい。いままでにも何人かの方から、「エリック・ロメール」って名前はもちろん挙がってるんですけど、他に、人によっては「ウディ・アレン」って言う方がいましたし、あと俳優の田口トモロヲさんは、すごく名言だと思うんですけど、「アットホームなカサベテス」と言ってくれましたけど、非常にそれはありがたい言葉だなと。まぁそういう比較はかなりされるみたいですね。


●「ジャック・タチが面白かった。何気にちょっとおかしいというところを目指している」

武藤:はい、あとなんか聞きたいことある方、手をあげて。どちらの監督でも。あっ、あの後ろの女性の方。
 

女性客:えっと、どちらの映画も、ちょこちょこおもしろいギャグというかなんというか、そういう場面があって、すごい楽しかったんですけども、好きなコメディアンとかいらっしゃいますか?ウディ・アレンとかもやっぱりちょこちょことおもしろいとこ、あったりするので、影響を受けた喜劇の人がいるのかなと思ったんですが。
 

武藤:篠原監督どうですか?
 

篠原:うーん、そーっすねー。パッと思い出すと、ジャック・タチという人の映画が面白かったですね。それと、僕は森田芳光監督の助監督をやってたんですけど、森田さんの、『家族ゲーム』とか『トキメキに死す』では、ある種のものすごく乾いたギャグをやってるじゃないですか。それが、わりとずっと好きでですね、真似しようと全然してませんが、根底にはどっか出てきてしまうことがあるかもしれない。たぶん全然違いますけどね。なんとなく。
 

武藤:今までの作品は、ギャグっていう部分は、ちょっと要素としてあんまりなかった…。
 

篠原:僕の映画ですか?
 

武藤:そうそう、今までの作品には笑える要素ってあんまりなかった。今回は意識して…?
 

篠原:それでも『草の上』は、ある笑いを目指してる作品なんですけど…。
 

武藤:ああ、そうなんだ。
 

篠原:そうですよ。あの『ヤング アンド ファイン』っていうVシネマもそうなんですけどね。基本的には僕はどっかで笑いがないとちょっと…。笑いをつくりたいと思ってるんですよ、本当はね。でも笑いのセンスは、僕自身にあんまりないもんで、たぶん。だから僕、これが限界かなっていう感じですかね。
 

武藤:限界…。
 

篠原:限界というか、そんなに深く、ギャグの研究をしてるわけではないんで。
 

武藤:なるほど。
 

篠原:自然に、なんかこう人が無心に何かやっている時に、ちょっとおかしかったりするってところが一番いいと思うんですよね。一番ギャグらしいと思うんですね。やっぱりギャグを作ろうと思っても、たぶんできないので、なにげにおかしいというところを目指してるというようなところですか。


●「好きなのは、吉本興業、藤山貫美、エルンスト・ルビッチ」

武藤:大谷監督は?
 

大谷:えーと、一応僕、京都出身というか、関西人なんで。まあ、物心つく頃には吉本興業にどっぷりだったりとか。
 

武藤:京都でもそうなんですかね?
 

大谷:京都でもそうですよ。
 

武藤:大阪だと、もうもろって感じだけど、京都はちょっとなんかすましたような。
 

大谷:もうちょっと、ひねくれた…。
 

武藤:ちょっとひねくれた感じねー、なんか。
 

大谷:ありますよね。
 

武藤:うん。
 

大谷:まぁ、あとは藤山貫美。
 

武藤:藤山貫美?
 

大谷:はい、すごい好きですね。
 

武藤:懐かしいですね、それで?
 

大谷:ただ、まあ、映画に取り入れるっていうか、恋愛コメディー的な要素が、すごく重要な部分だなって思ってるんで。そういう意味では、あのー誰だっけ(笑)?ルビッチ?
 

武藤:ああ、エルンスト・ルビッチ。
 

大谷:ええ、かなり(影響を)受けてますね。やっぱり語り口とか洒落た感じとか、そういう描き方というか、人間の見せ方とか。だから、一つのギャグが、話をポーンと進めていくすごい力になったりというところは全部、エリック・ロメール…じゃなかった、ルビッチとか観て…。
 

武藤:ああ、ロメールよりむしろルビッチの方に影響を受けていると。
 

大谷:ルビッチの方です。はい。話の広がりとか進め方とか反転のしかたとか、そういうのは全部ルビッチの影響が多いとは思うんですけど。あまり今回の映画では生かされてないかもしれない。
 

武藤:ま、ルビッチをね。観てる人がどれだけいるかってこともありますけど。なるほど。はい。よろしいですか?はい。あとなんかありますか?はい、どうぞ。
 

男性客:えーと今、ルビッチって話がでたんですけど、僕、ベッドシーンというか、あの布団のシーンですね、あそこで、すごいルビッチを感じましたね。で、「あっ、そうなんだなぁ」と今思いました。
 

大谷:ありがとうございます。


●「“夢をもって、出てきた”という感じを出したかったので、大阪弁にしました」

客:『洗濯機』の方で、ひとつちょっと引っかかった所が…。筒井さんが大阪弁ですよね。あれはどうして大阪弁なんですかね?僕、観てて、なんか違和感あったんですねー。
 

篠原:うーん、いや必ずしも大阪である必然性はそんなになかったと思うんですが、うーん、いや原作も実は東京なんですよ。千葉あたりが設定されてるんですけど。なんとなく東京に出てきたヤツにしたいなと。いや要するにそこで、何となく、“夢を持ってやって来た”というようなニュアンスが、最初の段階では、もうちょっと出るかなーと思って、その辺で、大阪を設定したんですね。うん。で、筒井君は、もちろん喋れなかったんだけれども…。えーそれは、筒井君の大阪弁に違和感があったということ…じゃなくて?
 

客:そうじゃなくて…。
 

篠原:じゃなくて。まぁだから、そういう意味では、必然性は、全体にはなかったかもしれないですね。ただ何となく、さっきも言ったけど、“出てきた”感、というようなことをやりたかったような気がするっすねー。うーん、あとねー、セリフの中で「東京のせいにすんなよ」っていうことを言ってるんですけど、なんとなく、そんなようなことをやりたかったんですよ。ちょっとね。僕、東京者なんで、そんなに偉そうなことは言えないんですけど。まあ、上京してきてる周りの友人とかで、ダメになる奴なんかもたまにいるじゃないですか。「東京のせいにすんなよ、お前のせいだろ」みたいな感じのことを、ちょっとやりたかった気がするんですよね。はい。
 

客:わかりました。
 

武藤:いいですか?はい。あっ、ちょっとね、最初に言い忘れたんですけども。次があるから、すぐ、皆さん追い出されちゃうんですよ。で、二つの作品に関したアンケートお渡ししていると思うんですけど、それをたぶんここでゆっくり書いてる時間、ないと思うので、良かったら今、聞きながら書いといて、終わったらすぐ、ポッと。外でね、待ち構えていますから、アンケート回収箱が。そこに出せるようにして頂けると非常にありがたいんで、よろしくお願いします。あと、質問ある方は?はい、どうぞ。そちらの女性の方。
                          

女性客:篠原監督にお聞きしたいんですけども、雨のシーンと、もう一つ前半の方で、富田靖子さんが、川沿いを、はねながら歩いてるシーンで、川のところに夕焼けがちょうど映ってたんですけれども、両方のシーンとも、天気がそうなるまで、待って撮ったんですか?
 

篠原:えーと雨はあのあれですよねー…。
 

客:ええ、はい、あの富田さんが走って…。
 

篠原:あぁ雨ですか。あれは降らしたんですけどー。あのくらいの雨は降らさんと映らないんで、相当量降らしました。それから夕焼けは狙いです。夕焼けはかなり待って、ちょうどあのくらいの時間になるようにスケジュールを組んでやったんですけど。多少ぎりぎりだったような気がしてます。えぇ。
 

客:すごいきれいでした。夕焼けが。
 

篠原::ありがとうございます。


●「“小津”っぽく見せないためにどうすればいいか、一苦労だった」

客:えっと、大谷監督にも。最後の方で、鎌倉に移ってからラストまで、全体的にブルーっていうか…、ラストのシーンで二人ともブルーの衣装でしたよね。全体的にブルーがとってもきれいだったんですけれども、それは意識されて、ブルーの映像にしようとされてるんですか?そうではなかったんですか?
 

大谷:うーーん、ブルー…を意識する。…特定の色を意識するというよりは、それぞれの衣装の色や、セットの色とか、そういう色んな細かいところで、気を使ってやったりはしてたんで…。だから観られた方が、どこかの色が印象的に残られるとしたら、そういうのはあるんだろうなとは思うんですけど。ええ。
 

客:意図的では、なかった…。
 

大谷:意図的といえば…、
 

武藤:意図的でしょ。
 

大谷:うん、まあ意図的といえば色んなところで、意図的なことはいっぱいやってるんですけどね。
 

武藤:衣装とかはね、かなり色を考えましたね。やっぱりね。その3人、4人の配置をどういうふうな衣装と色で配置するかっていうのは、すごい何回も衣装あわせして。
 

大谷:そうですね。
 

武藤:で、あの場所が、すごく緑が多い場所なんですよ。それで、下手しちゃうと小津の世界になっちゃうんですよ。鎌倉だし。もろね、小津の世界に出てくるようなね家屋なんですよ。それをね、小津っぽく見せないためにどうすればいいかは、かなりね。
 

大谷:結構、一苦労だったですよね。
 

武藤:真似になっちゃうから(笑)、うん。その辺はね、色々考えてやりましたね。
 

客:ありがとうございます。


●「映画自体、音楽的なシンフォニックなもの。だから音楽はいらない」

 

武藤:はい、あとどなたかいらっしゃいますか?あっじゃあ後ろの…。
 

女性客:『avec mon mari』の方で、音楽が、ずっとなかったと思うんですが、それで、終わった時に、アコースティックギターで、ポロロンって鳴って、その時はっとしたんですけれども。それは、もう最初から音楽をつける予定は、なかったんでしょうか?
 

大谷:ええ。なかったです。あのー、この前、黒沢明が、“映画は一番音楽に近い”みたいなことを言ってたんですけど。自分は、映画自体がそういう音楽的なシンフォニックなものだと思っているんです。だからそれ自体の流れを、絶対大事にしたかったですね。特にセリフが、次から次へと繰り出すような感じなんで、逆に音楽を入れると、もうそこで途切れちゃったりとか。もともとセリフが持ってる意味やニュアンスとか、その部屋の中の空気とか、そういうのが消えちゃうんですよ。だからどうしてもそれを生かしたいと思ったんです。音楽を入れようかっていう話もあったんですけど、やっぱりここは音楽を入れないと。その分だから、セミの声とか、花火の音がバンバンっていったり、例えば隣の部屋からテレビの音が漏れて聞えてきたりとか、そういうことに思いっきり神経集中したというか。まあ、それをやった方が自分としても楽しかったんで、そっちの方が凝ってました。
 

客:ありがとうございました。
 

武藤:音楽なくって退屈でしたか?
 

客:いえ、そんなこと全然。最後に音がしたんで、そういえば音楽がなかったなっていう感じだったんですけど、全然気になりませんでした。
 

武藤:それはようございました。というか、良かったです。えーあとなんかありますか?どなたか、あっ、なくなった。えーなんでも結構ですけれども。ご意見でも結構ですが。あっ、じゃ、どうぞどうぞ。


●「隅田川と荒川、江戸川が縦に流れてるエリアというのはだいたいほとんど見て、決めたんです」

女性客:下町って聞いた時に、『恋、した。』の文京区辺りでやると思ったんですけど、金町辺りにしたのはなんでなんですか?
 

篠原:あっ(笑)。文京区は下町っていうよりは山の手だよね、たぶん…。住宅の在りかたっていうのは街によって全然違うんですね。それで、いわば川の近くっていうことが一つあって、、足立区、葛飾区。まあ要するに、隅田川と荒川、江戸川がある。この3つ河が縦に流れてるエリアというのはだいたいほとんど、見たんですよ。それで、どこか似たような空気があるわけなんですが、まあ一番当初、電気屋を探すのがメインテーマですから…。
 

客:あれ本物なんですか?
 

篠原:本物です。あの表まわりは本物で、まぁ本物っていうか、空いてる電気屋を飾り込んだんですよ。要するに、閉鎖される寸前の電気屋を借りて、そこに物を運び込んで飾り込んで。ほんで中の倉庫は、こっちでセットを作ってやって、という感じなんですけど。
 

客:北千住とかは、ああいう商店街もあって、さらに下町っぽく、すっごい細い路地があったりして、好きなんですけど北千住って案はなかった…?
 

篠原:あっ、北千住も見ましたよ。うん、だからあの辺はね、全部見たんですよ。それでね、僕が使ったのは堀切なんですね。北千住のちょっと下じゃないですか。えーと、ともかく堀切の辺りも相当入り組んでてね、うん。橋は、「木根川橋」っていう、もうちょっと南の、荒川の方の、四ツ木というところなんですけどね。とにかく、北千住もその中に入るというか、同じエリアの中でやったつもりではいます。
 

客:あっはい、分かりました。ありがとうございました。


●「“男の子よ、元気になれ!”“男はどっか弱くても強い”っていう映画を撮りたい」

武藤:はい、どうも。あとありますか?はい、じゃあどうぞ。
 

男性客:えーと、映画を撮ることってすごい大変なことだと思いますけど、その映画への情熱はどこからくるんですか?その原点ていうか、自分の…。
 

武藤:2人にですか?
 

客:あっ、はい。
 

篠原:俺?
 

武藤:うん、どうぞどうぞ。
 

篠原:いや、ま、それはね、色々あるんですけどね。最初に好きになった映画が『タクシードライバー』っていう映画でですね。観ました?あれはなんかこうデニーロが、色々…、ベトナム戦争とかあるけど、そういう背景をため込んだ上で、ばっとやる映画じゃないですか。基本的には、そういうのを目指したいんですね。なんというか、うーん、わりと「男の子よ、元気になれ!」っていうのをやりたいんです。そのためには、女の子も描かなければならないっていうか、起爆剤はそこにあって…。時代がどう変わろうとも、なんとなく、“男はどっか弱くても強い”っていうようなところ(を撮りたい)ですね。あるいはいろんなことがーあるけども、うーん、そーっすねー。それぞれの作品によって色々違うんですけれども、企画をやる時にはいつも、自分の身のまわりに起きてることも含めてですね、「なんだかこれはちょっとおもしろそうだ」みたいなことは、常に意識に入れてはいるんですが…。それが、自分のどういうところから出たかは、はっきり分からないけど、最終的に自分(の作品の中)に返ってくる…。最初に言ったように、僕は、「男の子を元気にする話」を作りたいと思ってはいます。
 

武藤:そういうのを作りたいって。
 

篠原:ま、なんとなくね、話を考えていくとだんだんそうなってくるんですよね。「なんで男が、こんなふうになるんだ!」っていう…、なんか男中心なんですよね。だからって別に女の人を無視してるわけじゃなくて…。


●「余すことなく表現できる媒体で、映画ほどのものはない」

武藤:はい、じゃ大谷監督。
大谷:あのー、僕は、自分自身が映画ファンだとは全然思ってないんですよ。だから今までは、映画ってのは最終的な目的っていう感じでは考えてこないで…。だから自分自身は、「余すことなく表現できる媒体で、映画ほどのものはない」って思った時から映画を色々みて、改めて「あっ、こんな映画もあるんだ、こんな表現もあるんだ」っていうのがあった。最近本当に、「ああ、映画が面白いな」っていうか(笑)、「映画やっていきたいな」って。「こういう映画を作っていきたい」とか、今そういうのがようやく湧き上がってきたっていうか。1本撮ってみて、「あぁ、映画しかないか」っていう感じはありますね。いつまで続くか分かんないですけど(笑)。
武藤:いいですか?はい。えーと、時間そろそろきちゃったみたい。もしあるとすればあと一人くらいしか聞けないんですけど、どうしても聞きたいっていう方いらっしゃいますか?最後に、はい、じゃあの男の方。これで最後にしましょう。


●「映画が置かれている状況は悪くない。作り続けたい奴は、作り続ける。いかなる方法でも。」

男性客:今の日本の映画界、どう思いますか?状況的に。
 

武藤:すっごい抽象的な質問ですよね。
 

客:作品がどうこうじゃなくて、映画の置かれてる状況みたいな。
 

武藤:あのー、1時間かかりますけど(笑)。いいですか。それ、僕に聞いてないですか?それとも誰かに聞いてるんですか?
 

客:皆さんに、じゃあ。
 

武藤:じゃ、もう説明する時間ないんで、一言で、いいか悪いか、それともそうじゃないのかぐらいのところで、ちょっと監督に。
 

篠原:それは、人それぞれ意見違うと思うんだけどね、俺はいいと思いますよ。悪くないっすよ、ちっとも。はっきり言いますと、色々予算は下がってますけど。けど、その中でどうしたら面白くなるのかなっていうふうに逆に作り手は頭を働かしてるんじゃないかと思うんです。だから、たぶん、作り続けたい奴は、作り続けるんですよ。いかなる方法でも。あなたの(質問に対する)答えになっているか分からないですけれども、悪くないっすよ、いいっすよ。はい。
 

武藤:はい、じゃ、大谷監督一言で。
 

大谷:僕も篠原監督と、同意見というか、チャンスっていっくらでも転がっているんで。それを拾ってモノにできない人間の責任だと思うので、日本の映画の状況がどうかこうかというのは、僕は全然考えたことないです。
 

武藤:はい、これは僕の専門なんで、僕も一言言っときますけども、今はまだよく見えない状況になってると思います。いろんな要素がありますけれども、ただ僕が確信するのはこれからすっごく映画は可能性があるメディア。つまりもう(映画が)斜陽(産業だ)とかいわれた時代ではなくて、まったく違う映画がこれから生まれてくる<産業としてもあるいは一つのソフトとしても>っていう時代になってくると思います。ですから10年後になると、僕が言ったことはきっとみんな正しかったなと思うと思います。え、ということでもう時間になっちゃったんで、最後にじゃあちょっと一言。これからのことを踏まえて、なにか。宣伝でもいいですから。また一言ずつ、じゃ篠原監督。


●「一人でも多くの人に「こういう面白い映画があるよ」と伝えてほしい。そこから“映画の未来”が絶対開ける」

篠原:はい、えーと、この『洗濯機は俺にまかせろ』は、実は公開が決まってません。さっきの問題で、しいて言うと、出口が少ないもんですから。出口というのは公開される、要するに劇場そのものが少ないので、そういう意味で非常に苦労している状態というのは日本の中にあると思います。正直言って。それで僕は、この『洗濯機』の後にもう1本『君のためにできること』という映画を日活の製作配給で作ったんですけど、これも実はまだ出先が同じように決まってないということがありましてですね。これは内容的には『洗濯機』と全然違うんですけども、“2部作”、自分の中では“2部作”のようなつもりで作ったので、これも、どこかでやる折にはみていただければ、と思います。また来年に向けても何本か、とにかく撮り続けたいと思っていますんで、よろしくお願いします。
 

武藤:はい、どうも、じゃ大谷監督。
 

大谷:えっと、『Avec mon mari』は来年の早春、シネアミューズで、公開っていうことになりました。もう、宣伝の方もボランティアの方に手伝ってもらったりとか、本当に手作りで宣伝してます。それで、大きな媒体を使って大きく宣伝するってことができないので、こういうチャンスを一つ一つ大切にしたいというか、皆さん、是非ともまわりの方々とか、お知り合いとかに薦めてやって下さい。よろしくお願いします。
 

武藤:はい、ということで、じゃ最後に締めます。今、篠原監督が言われたように劇場が少ないって本当にその通りなんです。日本の映画をかける劇場って本当に限られてまして、この『アベモン』は、それでさんざん苦労しました。完成したのは今年のあたまです。で、やっとシネアミューズさんでやってくれることになりまして、ホッとはしてるんですけど。ま、これからが勝負なんで、なんとか頑張っていきたいと思います。篠原監督の『洗濯機』も、たぶん来年には公開されるであろうと…。
 

篠原:はい、そうですね。
 

武藤:ということなので、今日観て、気に入って頂ければ、本当に口コミの力というのは大きなものなので、是非一人でも多くの人に、「こういう面白い映画があるよ」って言ってもらいたいなと思ってます。そういうことから、さっき言った“映画の未来”が、たぶん絶対開けると私は信じておりますので。今日は本当に観にきて頂いて、どうもありがとうございました。