しんゆり映画祭では「青〜chong〜」(第6回)、「BORDER LINE」(第9回)と、デビュー作から応援してきた李相日監督。その李監督の新作「SCRAP HEAVEN」がいよいよ10月に公開されます。当映画祭も制作支援で協力。また、市民スタッフがエキストラとして参加しました。
 映画の撮影現場ってどうなってるんだろう?! エキストラを体験したスタッフが撮影現場をレポートします!

−2004年7月某日−
 ロケ地となる、みなとみらい線・新高島駅の改札を出ると、そこには既に十数人の若者が座り込んでいる。皆、大学生くらいの年齢である。私(28歳)は少々気後れを感じて後ずさりしそうになったが、実を言うと今日は会社を早退してまで来ているのだ。意気込みだけはやたら熱いのだ!しょうがないから一人片隅で待つ。少々居心地が悪い。しばらくして他の映画祭スタッフがちらほらと集まってきて、見慣れた顔にようやくホッとする。

 前の撮影が押していたとのことで、撮影部隊が到着したのは1時間半遅れの19時30分。その頃にはエキストラとして集まった人の数は30人以上になっていた。蒸し風呂状態の駅地下で待っていたため、何もしないうちからみんなバテ気味である。

 さて、ロケ内容はこうだ。
「雑踏の中を加瀬亮さん演じるシンゴが歩いていくと、数人のキャッチセールスたちが女の子を取り囲んでいる。シンゴはその光景を横目で見ながら通りすぎていく」
 私たちエキストラは、もちろん雑踏の中行き過ぎる通行人である。

 新高島駅は改札口のある地下の上階に長めの通路があり、そこには地上に出るための階段が3箇所に伸びている。撮影はこの”長めの通路”全体を使って行われる。
 頭にタオルを巻いた李監督が脚立の上に座って通路をじっと眺めている。(単なるタオルがオシャレに見えたのは私だけ?)映画『69』が公開されて雑誌などで目にする機会も増えたが、実物はもっとカッコ良く見える。

 助監督さんたちの指示で、エキストラは方々に散らばっていく。私たち映画祭スタッフ5名は運悪くカメラから一番遠い階段の、しかも一番高い段に配置されてしまった。そこって階段とそこにいるエキストラしか見えない。カメラに写ることはもとより、撮影現場すらほとんど見えない。
「スタートの合図がかかって、前の人が歩き出したら3秒カウントして歩き出してください」
と指示されたのだが、どうにかしてメイン場所(つまり加瀬くんが歩く場所だ)を見たくて、とても3秒なんて待っていられない。2秒待ってダッシュである。エキストラという立場をほとんど忘れている…。

 ところが無常にも階段を降りきる前に「カット!」がかかってしまうのだ。この調子じゃ、カメラに写るどころか撮影現場すら見えないんじゃ…。途方に暮れていると下にいたスタッフの方から「ちょっとそこの4人降りてきて」とお呼びがかかった。私たちが階段の上でブーブー騒いでいたのが聞こえたのか?しかしこういう時、女の子ってお得だ。唯一人残されたK徳さんゴメンナサイ。

 が、いきなり配置されたのはキャッチセールスの手前。めちゃくちゃメインじゃん。騒いでいた割りにそこまでの昇格は望んでいなかったので一瞬ひるむ。本当は度胸ないのだ。しかもキャッチセールスのお兄さん、すごく怖い。6人ぐらいいたのだが全員長身で、黒いスーツを着て髪が青かったり、香水の匂いプンプンしていて、道で引っかかったら本気で怖いだろうなーという感じ。聞くと、やはりプロの役者さんであった。

 そして、加瀬くんをようやく見れた! サラリーマンの設定なのか、グレイのスーツにブリーフケースを提げている。いろいろな映画で拝見してきたが、意外に小柄なので驚いた。そして、顔の小さいこと!とても洋服が似合う。確か雑誌「an・an」でオシャレな男性タレントに選ばれていたけれど、それも頷ける。

 さて、撮影はテストを数回繰り返した後、本番となる。スタートの声がかかる少し前からキャッチ役の役者さんたちが芝居に入る。「お姉ちゃん、かわいいねー。3万円でどう?」と、女の子を囲む。この囲まれる女の子を演じるのは映画学校・俳優科の生徒である。私たちはその周りを通り過ぎる。エキストラ初体験の私などはただ無表情に歩くだけで精一杯なのだが、他の人たちは小突きあったり、隣りの子と話しをしたり、小さくお芝居をしていた。

 しかし…暑い!暑すぎる!待ち時間、私たちは涼を得ようと狂ったように団扇を仰ぐ。加瀬君は?と目をやると、手に蛍光緑色の小型扇風機を持って風を顔に当てながら、超放心状態。この図、失礼ながらとても笑えてしまった。(しかし、あの表情は役作りだったのかもしれない?)

 3テイクを撮り終え、時計を見ると22時を回っている。ここでひとまず撮影第一段階終了。「では、黒服を持参された方は残ってくださーい」とスタッフの声。これから朝までまた撮影が行われるのであろうか(映画祭スタッフのYくんは朝までがんばったそうです。お疲れさまでした)。少々老齢(?)の映画祭スタッフ5名は「もう十分堪能しましたー」という気持ちで、フラフラと撤収させていただきました。

 それにしても、多分10秒にも満たないシーンなのだろうが、撮影を終えた後のこの妙な快感って何だろう。映画の一場面に自分が小さく写ったかもしれないということ以上に、その現場を生で見れたことが非常に面白く刺激的だった。そして、それを仕事にして、映画一本撮り上げた後の充足感ってどんなもんかしら。映画作りってサイコーにエキサイティングな仕事だろうなー。

 その日はそんなことを思いながら眠りにつきました。
 どんな作品になるか今から楽しみ。劇場で興奮して黄色いカーディガン(私)を探すでしょう。みんなも探してくれ。
 李監督、シーン全カットなんてしないで下さいね。心から頼みます。
(記 竹中
 彩)