2002年10月13日
「ハッシュ」上映後 トーク
橋口 亮輔監督

司会:竹中、田代(市民スタッフ)

カンヌでスポットライトが当たったら頭のなかが真っ白に

司会(以下、S):橋口監督には、しんゆり映画祭の公式パンフレット用に、8月にインタビューさせていただいて、すごくたくさんの話をおうかがいしたので、その時の様子はお手元のパンフレットでご覧になって下さい。今日は、更に詳しく、映画の内容や監督ご自身のこともお聞きしたいと思います。どうぞよろしくお願いします!

(会場から拍手)

監督は『ハッシュ!』でたくさんの映画祭に招待されて、カンヌなどにも行かれて、しんゆり映画祭も今回で2度目ですが、この映画祭の印象を聞かせてください。

橋口(以下、H):ええと、前回何年前でしたっけ?

S:第3回なので、5年前です。

H:その頃の映画館は、もっと別なとこだったような・・・気がして。スタッフの方も、若い方が多かったと思うんですが、今回は、若い女性の方が、トークの司会をしたりとか(笑)。以前はなかったので、ああ、随分とアットホームな風に変わってるんだな、皆さん頑張ってるんだなあという風に思いました。

S:ありがとうございます。

H:ただ、遠いですよね(笑)。しんゆりねえ。皆さんどうするのかな?と思ってたら、こんなに大勢ねぇ。皆さん地元の方なんですか。たくさんいらっしゃってびっくりしました。

S:チケットも、すごく早くに完売しちゃって、大人気だったんですよ。

H:ありがとうございます。

S:『ハッシュ!』をカンヌに持っていかれて、カンヌの様子がどんなだったのかお聞かせ願えますか?

S:カンヌはですねえ、映画が12月の28日に完成して、それで、年が明けてもう1月の中旬ぐらいには、カンヌの招待が決まったんです。2001年度のカンヌは日本映画が、10本出てたんですね。今村監督の『赤い橋の下のぬるい水』とかも含めて10本出てて、史上最多の招待だったんですが、『ハッシュ!』が一番最初に決まってて。最初『ハッシュ!』はコンペだったんですけど、カンヌの中で色々あって、監督週間にってことになったんですが…。監督週間だけでも映画を選ぶディレクターさんが5人いて、世界中の映画を800本見て、800本の中から20本選んで、カンヌの監督週間で上映されるっていう。それ聞いて、世界中で年間800本も映画が作られているっていうことも、おおっ!て思いましたけど、その中の20本に選ばれたっていうのはとっても光栄だなあって思って。コンペに出て赤絨毯の上を、中村江里子のように歩くっていうのが夢だったんですけどね(笑)。でも監督週間はやっぱり、トリュフォーとか、ゴダールが、反骨精神みたいな思いで、商業主義とは違う映画をっていうようなことで作ったセクションなので、やっぱりとっても嬉しくて・・・。事前に片岡礼子とも「カンヌは何を着るんだ?」っていう打ち合わせをしてですね。で、僕は白を着る、と(笑)。「片岡は何を着るんだ?君はモスグリーンにしなさい」とか色々指示を与えて。田辺君にも提案をして。「田辺君、衣装買った?何を買ったの?」「黒です」「ああ、オッケーです」みたいな打ち合わせをずーっとして(笑い)。出演者と、スタッフと10人ぐらいで行って。カンヌは飛行機を乗り継いで16時間もかかるんですよ。でも、行ってみたらなんかこう…まあ、熱海のような(笑)。新幹線乗ってると熱海が見えてきますよね。山がパーっと切れたら、山沿いに旅館があって。あんな感じでカンヌがあって、「なんだ熱海じゃんって…。」「どっかに絶対流れるプールあるぞっ」とかって言ってたんですよ。で、着いてみたら、やっぱり普通の映画祭とは違うというか、昼間から男性はタキシードで、女性はオーバートップのドレスで歩いてますしね。町の交通整理してるおまわりさんも、この日のためにお前はやってるだろうっていうイケメンなんですよ。でね、ほんとにすぐこっち側がイタリアで、すぐあっち側がスペインていう感じなので、それ目当てにそこらじゅうのイケメンとイケギャルが集まって来るんですよね。3泊4日だったんですけど、カンヌで上映する映画は大抵事前にフランス国内、パリで試写をやってマスコミの人に見せて、それで、マスコミの人がこの映画面白いなって思ったらカンヌで監督とかにインタビューするっていう流れになってるんです。でもスケジュールがなくて、『ハッシュ!』は試写をやれなかったんですよ。だから「カンヌに行っても、多分『ハッシュ!』はインタビューないですよ、日本のマスコミの人も行ってるから、多分日本からはちょっとあるかもしれないけど、海外からはないでしょう」って事前に言われていたので、なんだそうか、じゃあ3泊4日暇だなあ、海でも泳ごうかなあって思ってたんですけど。着いた翌日の朝早くの試写が大評判になって…。その日のうちに 30件以上バーっと海外のメディアの取材が入って、もう僕は休む暇がなく、上映もほんとに千人以上入る所でやったんですけど、満員で…。「こんなに外人がいっぱいいる!」みたいな感じでした。僕は映画祭には慣れてるんですけど、さすがにカンヌのムードと、お客さんたちの目も高いですからすごい緊張したんですが…。フランス人というのは、「アメリカ人には絶対負けないわ」、みたいのがにじみ出ててですね(笑)。「映画はリュミエールが作ったのよ、あたしたちが作ったのよ」、みたいなところがあって。「どうかしら、あたしたちのおめがねにかなう作品なのかしら?」みたいな、ちょっと高い所からみるようなところがあるんですけど、ほんとに最初から最後まで笑いが絶えなくて…。最後は拍手喝采で。スポットライトがパーンて当ったんですね。もう頭が真っ白になって。一応お客さんの拍手に応えてたんですが。その後ビーチパーティーなんかがあって、映画みたいだね〜とか言いながら、皆で楽しくお酒を飲んで。とっても忙しかったんですが、素晴らしい体験でした。それがきっかけになって世界配給がいろいろ決まったので、とても感動…よかったです、はい。

S:フランスでも上映されましたよね。

H:ええ、まだやってると思います。今、アメリカでもやってると思います。

S:反応の方は、どうですか?

H:そうですね、今度オランダでやるので、オランダの方が楽しみですけど、どうなんでしょうかね、はい(笑)。

オランダでは「スポイトでどうやって子供をつくるか」の講習会がある!?

S:オランダのお話が出たところで、お伺いしたいんですけども、参考になさったお話があったということなんですが、そのへんをお聞きしてもよろしいですか?

H:色んなものに書いたりとか、インタビューとか、パンフレットにも書いているのであれなんですが、5年前に『渚のシンドバッド』が終わって、ロッテルダム映画祭に初めて行って、そこで賞をいただいたりなんかして、その流れでオランダのアムステルダムに行って、SWITCHの取材で、人や性について取材するっていう仕事を引き受けて。「橋口さんなんか取材したいものあります?」って聞かれたので、「実はこうこうこういう映画を考えているんですけど、実際にゲイのカップルとか、レズビアンの人でもいいけど、子供を作ってる、家族を作ってるっていう人がいたら取材させてください」って言ったら、たまたまオランダのコーディネーターの人の友だちが、本当にそうで。「ああ、是非!」って向こうに行って取材して、最終日にその方たちのお宅に伺ったら、2人のゲイのカップルと1人の女性に、実際女の子がもう生まれていて、その時一歳で。そこのお宅にお邪魔して色々な話を伺って…。『ハッシュ!』を作るにあたっては、この片岡礼子がやった朝子ってどういう女なんだろうっていうのが掴めなかったですね。僕自身も子供っていうのがあんまりイメージになかったので、「話としては面白い、これ作んなきゃ」って思うんだけど、実際、役柄を考えていくと、どういう思いで子供をつくろうって思ったんだろうって最初は全然掴めなかったのが、その方たちのお話を伺って、「ああ、なるほど」と。実際にその方たちもスポイトで作られてて、冗談みたいでしょ?いいのか、それでっていう感じでしょ?でも、オランダっていうのは不思議な国で、政府が月に1回か2回、《スポイトでどうやって子供を作るか》っていう講習会をやってるっていうような変な国なので、そのお話とかアイディアを頂いて…。帰り際にその女の方に、「あなたも父親になれる目をしてるわね」って言われたんですよ。ああ、そうですかって言ったんですが、女の人って、学歴があるとかハンサムであるとかっていうのも、もちろん大切かもしれないけど、直感で「ああこの人はお父さんになってもいい人だ」、とかそういう風な感じ方をするのかなというのが、ずっと胸の中にあったりして。

S:その経験の端々が映画の中に反映されているってことですね。

H:そうですね。それは随分と。でも、あの方たちの生活を日本にそのまま置き換えても、それはアムステルダムだからやれたんだろうし。このまま、東京でやってもリアリティがあるのかなっていうので、日本に戻ってからもまたずいぶん悩みましたけど。多分5年前に『ハッシュ!』作ってたらこれほど皆さんに受け入れてもらえただろうかって思います。5年間撮らなかったのって長いですよねって、よく言われるんですけど、でも5年っていう時間が経って、今日本でみなさんに見せて、映画もこうやって東京ですごく成功したんですけど、その時間がどうしても必要だったのかなあって思いますけど。最近アムステルダムのその方たちと連絡を取って、僕は多分、もう別れてるか離れ離れに暮らしてるか、なんかでもめてるかなって思ったら、まだ実際に生活してらして、しかも二人目の子供が生まれたと。映画で言えば直也の子供が生まれたと。それで当時僕が会った1歳の女の子が、今もう6歳になってるんです。それで2歳の男の子が弟でいると。ゲイのカップルはもちろん二人でいるんですけど、お母さんのほうは、レズビアンじゃないけれど、親友の女の人と二人で暮らしてて、2人の子供がいて、計6人家族みたいになってると。増殖してるんです(笑)。やっぱり親御さんたちはヘンな家族関係じゃないですか、だから「この子たちが、小学校とかに行ったら、お前の家族ヘンだなーとかっていじめられるんじゃないだろうか」、とか思春期になったら、「なんでこんな家族に生んでくれたんだっていう風に思うんじゃないだろうか」、と常に心配してるらしいんですよ。6歳の女の子はそれを分かるらしくて、「もうホントにこの家はうるさいわ!人が多くて」っていう風に年中グチを言ってるらしいんですけど。お母さんが言うには、それは私たちがいつも子供のこと心配してるのを、少しでもやわらげてあげたいっていうような子供心で、「もうヤダわ。人が多くて」って言ってるのだそうです。現実のほうがもっともっと映画よりも先を行ってるんだなあ、と思って。それの是非は置いとくとして、たくましいなあと思いました。

小説版「ハッシュ!」

S:小説版の『ハッシュ!』を監督ご自身がお書きになられていますが、小説に関するインタビューで、小説のほうでは、朝子が勝裕を好きだったような気持ちを含ませたとおっしゃられていましたが、映画でそれを描かなかったのはなぜなんでしょうか?

H:描いてるんですけど、そこカットしてるんですよ。

S:そうなんですか。

H:ええ。ぜひ(DVDの)特典で…(笑)。

S:もし、勝裕を朝子が好きだったとしたら、その後の3人の関係ってすごく微妙なものになっていくんじゃないかと思うんですけど、監督ご自身がお考えになっている『ハッシュ!』のその後の展開ってありますか?続編みたいな感じで…。

H:続編っていうよりも、当初、どういうラストにしようかなって考えた段階では、朝子が1人で子供を産んで、1人で育ててる。直也と勝裕は別れていて、直也には新しい若い恋人がいて、朝子をフォローしに来てるっていう風なラストを考えていたんですよ。浮かれたみたいに子供を作っちゃったけど、それほど現実は甘くないぞ、みたいなラストだったんですが、それがスタッフにも不評で…(笑)。じゃあ、子供産ませないほうがいいんじゃないかってところに落ち着いて、今の形になってるんですけど。でも、そっちのほうが「どうなるんだろう、この人たち?」っていう広がりが出て良かったなと思いますけど。

S:ありがとうございます。

S:前回インタビューした時に監督は子供を持つことはないだろう」とおっしゃっていたんですけども、今もその考えは変わらないですか?

H:ないでしょうね。

S:その、オランダで言われた「父親になれる目をしている」という言葉をもってしてもですか?

H:そんなこと言われてもって感じですよね(笑)。やっぱり子供は、大きな責任を伴う、一個の人間を作っていくことじゃないですか。怖いですよね。よっぽど自分が…。自分が1人でいるのが寂しいから子供をというのは、僕は絶対嫌だし、自分の生活の基盤や精神的な安定とかちゃんと信頼できるパートナーがいるとか、そういうものが出来て初めて、その次の段階にどう人生を進めていくかって選択の中に、子供っていうのもありかな、と思えたらそれはそれでいいと思うんです。でも、今のところは…。

S:ありがとうございます。

理想の家族――『大草原の小さな家』的なものはもう自分にはない

S:監督が考える「理想の家族の形」っていうのは、どういうものなんでしょうか?

H:「理想の家族」ですか…。そうですね…。

S:『大草原の小さな家』が理想だっておっしゃっていたかなあ、と読んだのですが。

H:小さな頃から両親がずっとケンカしてるような、家を出たり入ったりするような中にいましたんで、『大草原の小さな家』みたいに強いお父さんと優しいお母さんと本当に子供らしい子供がいて…っていうようなものが理想ではありましたよね。なんで自分はこういう無邪気な子供みたいになれないんだろうって。子供って、親がケンカしたりすると自分を責めたりしますから。自分が悪い子だからなんじゃないかとか。そういうことは常に思ったので。ただ、どこかで自分をもう一回、確立しようとしたときに、そういう『大草原の小さな家』的なものは自分にはもうないし、自分の求めるものはこれではないんだって20代の初めに思いましたので。だから、それに代わるものっていったらなんだろう?と思ったらやっぱり映画だったんじゃないでしょうか。映画もやっぱり家族に例えられますよね。1ヶ月、2ヶ月くらい…同じ釜の飯を食う、じゃないけど、現実の生活の中で付き合っているより、もっと深く深く付き合えるというか。そういう意味では、『ハッシュ!』を撮り終えて思ったんですけど、自分にとっての家族っていうのはやっぱり映画で、だから映画っていうものにのめり込んだのかなって感じました。

S:映画監督になられたきっかけというのは具体的にはありますか?

H:ないです。

S:気が付けば…映画を撮っていた?

H:というか20代はずっと自主映画をやってたので。アルバイトして、10万〜30万ためては半年ぐらい映画を作って、お金なくなったら借金して。そんな感じだったので、将来有名になりたいとか、映画監督になってお金いっぱい稼いで…とかそういうことは一切思ってなくて自主映画やってたんですよ。そういう自覚のないままやっていって、『二十才の微熱』を30歳で撮って、それが劇場公開されて、初めてベルリン映画祭などの大きい映画祭も招待されて行って、日本でも大ヒットして…ていうところから自分は映画監督なんだなって自覚が初めて生まれたんですよ。ご存知かどうか分かりませんけれど、『二十才の微熱』は普通の大学生が男性相手に身体を売っているっていうような、当時としてはセンセーショナルな内容だったんです。やっぱり僕自身もティーンエイジャーの頃、自分みたいな気持ちを抱えてる人間は世界中に1人しかいないんじゃないかと思って、すごくひとりぼっち感があったので、たまたまこの『二十才の微熱』みたいなのを作って、小説も出しましたけど。これを本屋さんとかビデオレンタル屋さんで手に取って、「こんな映画が世の中にあるんだ、ああ1人じゃない」って思ってくれたら嬉しいなと思いながら作ったんですけど。実際、日本各地から、東京や大阪ほど情報が氾濫してないような青森とかの10代の人たちからいっぱい手紙をもらったんですよ。男の子、女の子から。自分はホモだっていうのが親にばれて自殺しようって思ったけど、この映画を見てやめたとか。そういう手紙を山ほどもらって。そうすると、僕自身、映画ってまだ人の人生を変える力が残ってると信じてるんですけど、子供を育てるのと一緒で、映画を世の中に出していくっていうのは、すごく責任というか、表現することの厳しさがあるんだってことを初めて分からせてもらえたので。以前はビデオレンタル屋さんに行って会員証作る時、職業欄の所にテレビディレクターとかちょっとわけの分かんないことを書いてたんですけど、それからはちゃんと映画監督と恥ずかしがらずに書くようになりましたけど。

S:今、『二十才の微熱』のお話が出ましたが、そのラストに、監督ご自身がご出演なされていて、とても強烈な印象があったのですが、俳優としてご自分の映画に出演するということは(これからは)なさらないんですか?

H:はい(笑い)。あのね、豊川悦司さんが撮った…みなさん見てるかな、深夜にやってた「つげ義春ワールド」っていう30分のドラマがあって、あれの初回の1話と2話にね、女優の鈴木砂羽さんと共演して、一応つげ義春の役をやったことがあるんです。俳優としてやったんですよ。でもね、自分はヘタだなってとってもよく分かったので。自主映画時代は自分で出てたので、なかなか自分は面白い役者なんじゃないかって思ってたんですけど…やっぱり役者さんは大変ですね。それが分かったぶん、『ハッシュ!』にもよかったんですけど。

S:監督ご自身は、とってもカッコよいですから…カッコよいですよね?ですから、映画の中の勝裕みたいに、女の子に言い寄られたりっていうことも多かったんじゃないかなって思うのですが、実際はあれは実体験からですか?

H:いや、そんなことないです(笑い)。

もっと人生を飄々と渡っていけたらどんなにいいだろうと

S:話題は変わりますが、パンフレットのインタビューの時に、笑いの要素が『ハッシュ!』では増えたのでは?というスタッフの質問に、監督は「この5年間でもうちょっと楽しんで生きていきたくなったから」とお答えでしたが、その具体的なきっかけって何かおありですか?

H:いや、具体的には…ないですけど、なかなかその辺は勝裕と似てるのかも知れませんが、なかなか自由に人生を楽しむ…って感じにはなれないところがあるので、そう風になりたいなあっていうのがあって。「もっと人生を飄々と軽々と渡っていけたらどんなにいいだろう」っていうような思いはあるので。『ハッシュ!』みたいなのを作れたから自分が飄々となってるっていうわけではないんですけど、どこか自分の中の目標というか、理想とする生き方みたいなつもりで。

S:前向きな方向性に変わってこられたんでしょうか?

H:うーん。やっぱり年齢もあるんじゃないですかね。今、40ですけど、『シンドバッド』を、33歳で撮って、『ハッシュ!』を撮るまでに随分時間が経ってますけど、『ハッシュ!』を1年半前くらいに撮ったので、やっぱり年齢も大きいんじゃないでしょうかね。はい。

S:『ハッシュ!』を制作されていた当時と比べて、ご自身の考え方で変わられた点はありますか?

H:うーん。まあ、そうそう人間変わらないので…あんまり。

S:『ハッシュ!』を制作されてから2年間経って、劇場一般公開から半年経って、未だにすごい人気ぶりですが、監督のご感想は?

H:映画公開する前は、この映画はどういう人向けでターゲットはどこなんだ?みたいなことをよく宣伝部は言うんですよ。やっぱり20代の女性〜30代前半ぐらいのOLさんとかが見る映画ですよね、みたいに言ってたのが、10代〜60代ぐらいの男性、特に男性が多いんですよ。50代、60代くらいの。これぐらいの方たちまで、映画館に来てくださって、すっごく幅広くて驚きました。『ハッシュ!』はもちろんゲイの男性は出てるんですけど、新宿2丁目の風俗なんかも出てたり、ちょっと下ネタっぽかったり、2丁目のゲイバーのわーって感じも描いてはいるんですが、もっとそういうことに関係なく広い客層の方が見に来てくださってたので、日本もちょっと変わったのかなあっていう思いはしました。

客席からの質問コーナー

S:お聞きしたいことは尽きないのですが、そろそろ客席のみなさんに、質問をいただきたいなあと思います。監督へご質問のある方、手を挙げてください。

Audience(以下A):本日はお忙しい中、こんな遠いところまで、ありがとうございます。『渚のシンドバッド』を見ても思ったんですけど、橋口監督の映画の中では、同性愛者の描写がリアルだと思うんですよ。別に僕、ゲイじゃないんですけど…。普段、そういった方とお話する機会があるというか、取材されたりするんですか?

H:あのー、僕、本物ですから(笑)。はい。僕、ゲイなんで…。

A:あっ、そうなの?

H:はい。全然オッケーです。いいっすよー。こっちへ来たらどうですか(笑)。

A:じゃあ、行かせていただきます(笑)。

A:今日はありがとうございました。この映画で、私は役者さん一人一人がとても役にすんなりしていて、人といることって本当にいいなあって思えたんですけど、役者さんを決める時の基準みたいな…パンフレットでも、とてもいい巡り合いをしたと書かれていましたが、どういうことを思ってキャスティングしているのか聞かせていただきたいと思いました。

H:難しいんですけど、やっぱり映画によってキャラクター、登場人物の設定がいろいろあるじゃないですか。それに、ルックスも含めて、やっぱり太った人は優しい印象があるとか、見た人のイメージがありますよね。とんがった顔の人はちょっと冷たい、意地悪とかのイメージもくっつきますよね。色んな見方も考慮しつつ、その人のお芝居のやり方と、うまくコミュニケ―ションをとれば、もっと別の面が引き出せるんじゃないかとか、そういう可能性を感じられるか、感じられないかとか。色んな面から考慮して、キャスティングするんですけど…。はい。

A:ありがとうございました。

A:今日は橋口さんに会いに一番前に座ったんですけど、『ハッシュ!』の中で冨士眞奈美さんがやっている役は、監督ご自身のお母様がモデルだと書いてあったのを見ました。あんなにパワフルなお母さんなんでしょうか?

H:冨士さんに申し訳ないんですけど、あれほど太ってないんですけど(笑)。冨士さんはホントにきれいな方なんですけど、うちの母はもうちょっとやせて。その勘違いぶりがおかしいなあって思って、母は子供のことを親なりのやり方で理解してるのが、とっても面白いなあと思ったので、そのおかしさが出せればいいなと思ってモデルにしたんですけど。他の登場人物はほとんど自分の分身をちょっと膨らませましたっていう感じで、秋野暢子さんがやってるような嫁の潔癖なところも僕はありますし、エミみたいな思い込みが激しくなっていっちゃうっていうところもありますし、みんな自分の一部みたいなんですけど、冨士さんのやった母親だけは僕、理解できないんです(笑)。ぜんっぜん分かんない。何考えて松坂牛って言ってんだ、お前って(笑)。分かんないですよね。その分かんなさが面白いかなと思って。冨士さんはとってもよくやってくださったんで、海外でも冨士さんが出てきただけで笑えますからね(笑)。要は、東西を問わず母親ってそうだな、みたいな感じがやっぱりあるんじゃないですか。

A:今回の映画の笑いの部分は結構、冨士眞奈美さんでもってってるみたいな感じがするんですけど、今後の監督の作品において「笑い」っていうのは、どんどん入ってくると勝手に思ってるんですけど、また、次の作品にも冨士眞奈美さん的なキャラは出るんでしょうか?

H:今回はコメディにしようって思ってなかったので。映画は監督の人生観とか、作り手の世界観とか、人間をどう見てるかとか、そういうものが反映されるのが演出だと思うので、たまたま僕がこういう風に人間を見てるっていうことだと思うんですけど…。自分の側に、エグいことも、「そんなのひどい!」ってマジにならずに、ちょっとちゃかせる余裕があるっていうか…。だから、笑いの要素も増えたんだと思うんですけど。次回はちょっと分かんないですけどねえ。

A:次は何年後になるんでしょうか?

H:そうですね〜。なるべく40代は実りの多い年にしたいので、いっぱい撮りたいなあ、と思ってるんですけど…頑張ります。

A:ありがとうございます。

A:ありがとうございます。私も、監督に会いに来ました。『ハッシュ!』も『渚のシンドバッド』でも一人一人がみんな孤独を抱えてて、それでも人と関わって、あきらめたり傷ついたりして、それでも好きだったり生きたいって思ったり、すごく人間的なところにいつも惹かれるんですが、監督自身、何か孤独とのうまい付き合い方とかそういうものってありますか?

H:どうなんでしょうかね(笑)。孤独なのはみんな一緒で、それが瞬間に誤魔化せるだけで、好きな人ができた時、とかラブラブな時は、一瞬ふっと忘れてしまうんだけど、自分が抱えている問題はやっぱり70、80歳になっても続いていくものだなと僕は思いますけど。どうなんでしょうか。うまく付き合う方法…。でも、気を紛らわせる人生じゃないんでしょうかね。仕事とか…。テレビ見たり、こうやって映画見たりとか。その瞬間その瞬間、自分を慰めたり、ちょっと忘れさせて楽にさせてあげたりとか。そういうことの連続が人生なんじゃないでしょうか。

A:ありがとうございました。

H:お礼を言われるほどのことでは…(笑)。

次回作について

S:まだまだ質問はあると思いますが、時間もなくなってきたので…。監督は次回作について何かお考えですか?

H:いくつかあって、色々お話もいただいてはいるんですが…。恋愛ものを撮りたいなあって思っていたり。マンガで、しりあがり寿さんの「弥次喜多 in DEEP」ってありますよね。あれは、あのままでは映画に出来ないので、弥次さん喜多さん的時代劇になるけども、やってみたいなあって思ったりもしますし。色々あるんですよね。いつも思うのは、『ハッシュ!』で3人が鍋を囲んでるラストっていうのがあって、あの冬の場面ではトホホな感じだった3人が、とりあえずそこまでいけたと。永遠のつながりじゃないけど、人とつながって「今この人たちと一緒にいて、とっても心地いいよね、僕たちは。」っていうところまで行って、引越しもできた。じゃあ、その先は僕はどういうものを作ればいいんだろうっていうのはいつも考えます。

S:ありがとうございました。

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