ニューウェーブジャパン


アカルイミライ

監督・脚本・編集:黒沢清 2002年/日本/115分
出演:オダギリジョー浅野忠信藤竜也りょう笹野高史
カンヌ国際映画祭正式出品

10/11(土) 18:10〜21:15
トーク:黒沢清監督

おしぼり工場で働く雄二は、身の回り全てに怒りを振りまきながら、なんとなく生きていた。彼が慕っているのは、激しい怒りを抱えながらも社会的な振る舞いのできる同僚、守だ。その守は、猛毒を持つクラゲを部屋で密かに育てていた。事件を起こした守は刑務所に入り、クラゲの世話を雄二にゆだねる。そして守の父、真一郎が現れ、雄二は彼のリサイクル工場で働くようになる。真一郎と雄二は心を通わせるようになるが…。

「終わってほしくない」。そう思いながら観る映画なんて、そうそう出会えるものではない。この映画は、僕にとってそんな1本だ。人と人は分かり合えない、という絶望がテーマだが、映画の印象は明るい。登場人物たちの「美しい誤解」をそのまま輝かしく描いているからだと思う。北村道子さんによる衣装、デジタルビデオカメラの凶暴な映像も美しい。メイキングで語っているように、こんな映画をさらっと作ってしまう黒沢監督は天才だ。(荒川)





ばかのハコ船

監督:山下敦弘 2002年/日本/111分
出演:山本浩司小寺智子細江祐子山本剛史木野花笹野高史

10/12(日) 16:30〜21:30
BORDER LINE』同時上映
トーク:山下淳弘監督李相日監督荒木啓子氏

青汁に当て込んで健康飲料「あかじる」の自主販売するものの、借金を抱えてしまった大輔。彼女の久子を連れて、地元で立て直しを図ることにした。しかし大輔の両親は反対し、父親の勤める会社に斡旋してやると言う。大輔は幼なじみの尾崎に協力を求めるが、断られる。途方にくれた大輔は、昔付き合っていて今は風俗で働くマドカのアパートに逃げ込む。久子は大輔を捜して慣れない町を歩き回るが…。

上映中、目の前で起こる奇跡をなかなか飲み込めなかった。全体が高度に洗練されているのに、表面はイモっぽい。全員のこのリアルな芝居は何なんだろう?特に山本剛史さんの芝居は強烈。「もういいから。ひい」と観客に思わせるまでとことん笑わせてくれるこの「ばかのハコ船」に乗っていると、映画制作はサービス業なんだなあ、とつくづく納得してしまった。「あんにょんキムチ」の松江監督も出演してます。(荒川)





BORDER LINE

監督:李相日(リ・サンイル) 2002年/日本/118分
出演:沢木哲前田綾花村上淳光石研麻生祐未

10/12(日) 16:30〜21:30
ばかのハコ船』同時上映
トーク:山下淳弘監督李相日監督荒木啓子氏

「青〜chong〜」で在日の若者たちの姿を伸びやかなタッチで描いた李相日監督の初長編作品。しかし、映画で描かれる登場人物たちはどこにも行き場がなく、閉塞した日本社会の中であえいでいる。

松田周史は川崎近辺(川崎のタクシーがそれらしく写っているので多分?)に住む工業高校生。教師から「10年後の自分」というリポートを書けといわれても「10年後死んでいたらどうするの」と反抗する。宮路はるかは、小さいころに父親に捨てられた。援助交際で警察に捕まったこともある。この翼をもがれた二人を軸にドラマは展開していくが、二人は日本社会のなかでやはりもがき苦しんでいる大人たちとの奇妙な縁で出会うことになる。

果たして二人の魂に救済はあるのか?李相日監督は「青〜chong〜」と全く違う淡々としたリズムでドラマを展開していく。しかしそれは、不快なリズムではない。登場人物たちに対する醒めていながら、じっと見つめるやさしい視線がどうしようもない日本人たちに対しても感じられる。ラスト近く周史からはるかにひとつの言葉が投げかけられる。その時、希望のドラマがゆっくりと幕を開ける。(三浦)





Jam Films

監督:北村龍平篠原哲雄飯田譲治岩井俊二望月六郎行定勲堤幸彦 2002年/日本/109分
出演:魚住佳苗山崎まさよし大沢たかお広末涼子吉本多香美妻夫木聡佐々木蔵之介
シネ・アミューズ劇場邦画新記録樹立

10/11(土) 14:40〜17:40
トーク:飯田譲治監督河合信哉プロデューサー望月六郎監督(予定)

堤幸彦監督作品は「HIJIKI」。警察に追われアパートに立てこもった男(佐々木蔵之介)は人質の女たちにヒジキをすすめられ、彼女たちの身の上話を聞いている。すると、しだいに男の考えが変わっていく。そして、そこに待っているのは衝撃の結末。 「ARITA」では岩井俊二監督自らカメラマンも務め、広末涼子が主演。ノートやテストなどありとあらゆる紙の上にARITAは現れていた。誰のところにも現れていると思っていたが、友達のノートにはARITAがいないことを知った。ある日、彼女はふと思い立って…。このARITAという不思議なキャラクターだけでなく、後からCGで合成されたARITAがあたかもそこにいるかのように見せる広末の演技も見ものだ。

行定勲監督、妻夫木聡主演の「JUSTICE」。高校男子クラスの授業中、教師ロバートがポツダム宣言を読んでいる。「平和」「自由」「民主主義」と訳を書き取る生徒やノートに落書きする生徒。退屈そうにしていた東条は窓外のグランドを眺めた。そこでは赤、青、緑のブルマー姿の女子たちがハードルを跳んでいた。東条は、机に女子がブルマーのズレを直す回数をカウントしていく。教師に見つかりカウントの意味を聞かれた東条は…。なんとこのストーリーは行定監督自身の高校時代のエピソードから生まれたというから驚き。

「Pandora -HongKong Leg-」 はJam Filmsのエロス部門、望月六郎監督の作品。足に誰にも言えない悩みを持つ眉子(吉本多香美)は、閉まっている漢方薬店の前で怪しい男と出会う。「秘密の薬がある」と誘われるまま男について行くと…。怪しげな、エロスの世界が広がる作品。容姿端麗で上品な吉本のイメージとのギャップもみどころ。この他に、篠原哲雄監督の「けん玉」、北村龍平監督「the messenger」、飯田譲治監督「Cold Sleep」の全7作品からなっており、ジャンルもアクションからコメディ、SFとバラエティー豊か。さらに人気と実力を兼ね備えた俳優がこぞって出演、それぞれの短編作品でしか見られない役者たちの魅力が見事に引き出されている。(山本)





刑務所の中

監督:崔洋一 2002年/日本/93分
原作:花輪和一
出演:山崎努香川照之田口トモロヲ松重豊村松利史

10/11(土) 12:30〜14:05
バリアフリー上映:日本語字幕副音声付き
おやつ(アルフォート)つき

エアガン片手にサバイバルゲーム。いつもと同じ様にハナワも楽しんでいた。そのハナワが鉄砲刀剣類等不法所持、火薬類取締法違反で懲役3年の刑を食らってしまった。晩秋の日高刑務所。受刑者番号222、ハナワの刑務所生活が始まった。個性あふれる四人の受刑者と雑居房でおくる規則正しい生活。時々「修学旅行に来てんじゃねーぞ!」と怒られながら、意外なほど刑務所の時間は、ゆっくりと静かに流れていくのだった。

たくさんの刑務所を舞台にした映画を観た人なら、いつの時代の話だ?と思わず突っ込みを入れたくなるに違いない。軍隊式は健在で、しかも行儀よくこなす受刑者たち。いさかいもなければ脱走を企てるものもいない。

毎日の食事のメニューで盛り上がり、仲間の癖のおかしさを報告しあう。究極の不自由さの中で、ハナワは五感全部を使って自由を満喫している。その無邪気さ、強さに私は笑いながら感動してしまう。漫画家・花輪和一、刑務所体験でさらにその才気を発揮するとは、恐るべし。

映画のエピソードでは使われていないが、単行本の巻頭に「ニコチン拘置所」というタイトルの作品がある。一日40本は吸っていた花輪。ニコチンが切れて脳がざらざらしてくる。そこで花輪はどうしたか? 新聞紙を破いて巻いてタバコを作り、筆箱にある消しゴムをライターに見立てて吸ったのである。うまい!大成功、と言ってこの作品は終わる。この無邪気さ、明るさ。こんなに脳天気でいいのか、おい?私は花輪が拘置所で妙に落ち着いてあちこち観察しているだろう姿を想像しては笑ってしまう。拘置所から刑務所。当然感じたはずのつらさなんて、作品には出てこない。けれども、どんな非常事態の中にもおかしさはあり、人生はおおかたそのおかしさを見つけていければ乗り越えられる、と花輪はいつものように当たり前に語っているのだった。私もまたいつものように、笑いながらとても大切なことを彼から受け取る。そして、あらためて花輪和一という漫画家の 作家たる所以を実感して、人生の師と仰いでしまうのだった。ところで、現実の刑務所の中では、描いたスケッチはノートから切り取られ、絵を描くことも許されなかったそうである。そんなことを思うと、彼が体全体で記憶し熟成させた貴重な体験が一冊の本になり、こうして崔洋一監督によって映画化されて、本当によかったと思う。ひとまず、恐るべし花輪の今後の作品に期待しつつ、みなさん、ぜひ映画館に足を運んで花輪ワールドにひたって下さい。(中村)





AIKI

監督:天願大介 2002年/日本/119分
出演:加藤晴彦ともさかりえ原千晶木内晶子桑名正博火野正平石橋凌

10/12(日) 13:50〜16:01
バリアフリー上映:日本語字幕付き
舞台挨拶:天願大介監督

―――「世の中平らの道なんて、ないんだぜ!」挫折することがあった時、ぜひ思い出していただきたい映画がこの「AIKI」だ。

主人公・芦原太一(加藤晴彦)はボクシングの試合で勝利を収めた日の帰り道、バイクの運転中に車と衝突…。この不慮の事故のせいで太一は下半身麻痺となってしまい、車椅子生活を余儀なくされることとなる。ボクサーとしての道が断たれたばかりか、今まで通りの生活さえもう戻っては来ない。自分の殻に閉じこもり、生きる意味を失いかけてしまう太一は、同じ病室の常滑(火野正平)の「あと一年だけ生きてみな」という言葉で自殺を踏みとどまる。しかし一年経っても変わらない。それどころか人間としてどんどん堕落していく…。

そんな太一に転機が訪れる。サマ子(ともさかりえ)との出会い、そして相手を受け入れることからはじまる「合気柔術」との出会いだ。それは彼に失っていた何かを思い出させていく…。主人公が弱い存在だからこそ、観客は自分と照らし合わせることができ、この太一という青年に引き込まれてゆくのだろう。

また、実話を基にしているこの作品は単なる青春映画という要素だけではなく、障害者のリアルな苦難も描かれているという点に注目していただきたい。他にも物語の中では一瞬だけ、永瀬正敏、田口トモロヲ、松岡俊介などの豪華ゲストも登場するので目が離せない。(鈴木)




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