アジアンストリーム


さらば、わが愛/覇王別姫
1993年/香港/172分
監督:チェン・カイコー
出演:レスリー・チャン、チャン・フォンイー、コン・リー

★1993年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
 娼婦の母に売られて京劇の養成所に入った小豆子。苦しい修行生活の中で、唯一の救いは修行仲間の小石頭だった。兄弟のように育った2人は、共に京劇のスター俳優となる。小豆子は女形の程蝶衣(レスリー・チャン)、小石頭は男役の段小樓(チャン・フォンイー)という芸名で「覇王別姫」という演目を得意としていた。この悲恋物語の内容と自分を重ね合わせていた蝶衣は、小樓に友情以上の気持ちを抱くものの、小樓は娼婦の菊仙(コン・リー)と結婚。蝶衣との間に亀裂が走る。1943年、日本と中国の戦争が激化した頃に小樓が日本軍に連行され、妻の菊仙は蝶衣に協力を求めた。しかし、その恩を裏切り仇で返す小樓と菊仙。蝶衣は絶望のあまり阿片中毒になる。その後文化革命の時代には、京劇が弾圧されて小樓が攻撃の対象となり、そこから蝶衣や菊仙、お互いへの裏切りの連鎖が始まった。時代の趨勢に翻弄される3人…。
 天上に向かうごとき京劇の華麗さと、演じる人々の地を這うような人生が絡み合って生まれる、哀しくも高貴な陰影をもつ作品。

(長谷川)
モンスーン・ウェディング
2001年/インド/114分
監督:ミラ・ナイール 
出演:ナシルディン・シャー、リレット・デュベイ、ヴァスンダラ・ダス
★2001年ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞
ニューデリーに暮らすビジネスマンのラリット・バルマの一家は、4日後にひかえた結婚式の準備でおおわらわ。長女アディティが親の決めた縁談を承諾したのだ。お相手はアメリカに住むインド人青年である。祝宴に駆けつけようと世界各国から親戚縁者が集まり、伝統的で、豪華な結婚式に向けて大いに盛り上がるバルマ一族。しかし、なぜかうかない表情のアディティ。その胸中には、今も捨てきれない想いがあって…。
物語は、彼女の恋愛模様に加え、聡明だが恋に縁がない従姉、不器用なウェディング・プランナー、オーストラリアからやって来たハンサムな従兄、彼に惹かれるセクシーな女などの織り成す、悲喜こもごものストーリーが絡まり合って進んでいく。
この中で私が一番胸にキュンっときたのは、ウェディング・プランナーのデュベイとアリスの恋。今まで他人の結婚式はいくつも取り仕切ってきたデュベイだけど、本人にはさっぱり春が巡ってこない。そんな彼がバルマ家の召使い、アリスに惹かれていく様子は何とも言えず微笑ましく、見ているこちらの顔もほっこり。彼がアリスに送る恋のサインには、そこここにマリゴールドの花が登場し、二人の純粋なやりとりを色づける。(キャンドルの中、アリスに告白するシーンは特に必見!)デュベイがむしゃむしゃと食べるマリゴールドの花も、彼が恋する過程をみていくうちに、甘い甘い蜂蜜の味でもしそうに思えてしまった。
インド映画と言えば、踊って歌うド派手なマサラ・ムービーを連想してしまうが、この映画はそれとは趣が違う。インドの中流家庭の生活が伝わるドラマである。(とは言え、大きな家に召使い付きというのが、中流と言えども日本とは大きく違うのだが…)だけど、ダンスも歌もしっかり登場するのでご心配なく。インドではそれは当たり前に生活の中にあるものなのでしょう。ちなみに「モンスーン」とは雨季をもたらす南西風、あるいは雨季そのものを指すのだそう。一年分の雨がこの時期にまとめて降るため、インド国民には大切な恵の風となる。
この監督の「サラーム・ボンベイ」は、インドのストリートチルドレンを描いた傑作だが、すでに配給権がなく、しんゆり映画祭での上映を断念した経緯がある。なので、本作をフィルムでごらんいただけるのは、とてもうれしい。映画館で見る価値のある逸品です。(竹中)
酔っぱらった馬の時間
2000年/イラン/80分
監督:バフマン・ゴバディ
出演:アヨブ・アハマディ、アーマネ・エクティアルディニ、マディ・エクティアルディニ
◆2000年カンヌ国際映画祭カメラドール新人監督賞、国際批評家連盟賞ダブル受賞


中学生、高校生の方が見て十分わかる内容です、ぜひ家族そろって。
イラクとの国境近くのイランの雪深い村。この村に住む12歳の少年アヨブには、病弱な兄マディと年頃の姉、二人の妹がいる。母親はすでになく、父親も地雷の犠牲となってしまった。家長として一家を支えることになった彼は、大人たちに混じって地雷や国境警備兵を避けながら密輸品を運ぶキャラバンにでる。厳寒の峠越えに耐えさせるため、馬(実はラバ)にしたたか酒を飲ませるような過酷な行程である。そして姉もまた、マディの手術代を工面するためにトルコにお嫁にゆくことにしたのだが…。
この映画は、困難に直面した家族の物語を通じて、クルドの人々の生々しい息遣いを伝えてくれる。彼らはわたしたちと同じように家族がいて、喜んだり悲しんだりしながら生きている。ぬくもりのある家のなかでは、親密なまなざし、お互いをいたわる小さな手、兄弟げんかや優しい仲直り…。うらやましいほどに固く結びついた家族の姿がある。そして一歩家の外に出れば、海千山千の密輸仲介人や、密輸品のタイヤを運ぶ長い行列や、雪の国境越えなどわたしたちの想像を超えた世界がある。あらすじを読んで「なんだ、悲劇につぐ悲劇、お涙頂戴の映画じゃないか」と思っているとガツンと背負い投げを食らう。のんびり生きている自分を恥じる気になり、とにかくこの映画のことを誰かに、とりわけ子どもたちに話したくなる。今、自分たちが手に入れ、失くしているもののことを。どんな場所、どんな時代でも、未来はかならず子どもたちのなかにあるのだから。(由田)
猟奇的な彼女
(副音声付き)
2001年/韓国/122分
監督:クァク・ジェヨン
出演:チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン、キム・インムン、ソン・オクスク、ヤン・グムソク
平凡な男子大学生キョヌは、ある日地下鉄で「彼女」に遭遇する。ゆらめく長い髪。清楚な顔立ち。すらりとのびた手足。その姿に見とれていたキョヌの前で、「彼女」は恐るべき行動に走る。おまけに、「ダーリン」という言葉と共に、気を失った「彼女」がキョヌに向かって倒れ込んできたからさあ大変。周りの乗客に「お前の彼女ならどうにかしろ!」とどやされ、無実の罪と泥酔した「彼女」を背負わされたキョヌは、以降ひたすら受難の日々を過ごすことになる。喫茶店の注文は、「彼女」がいうとおりコーヒーに変更。飲みにいけば、隣席の援助交際集団に説教ぶつ「彼女」にオロオロ。「彼女」が書いたトンデモな内容の脚本を読まされては、微妙な答えの選択を迫られる。これって「つきあってる」のか? 自問しつつ、きりきりまいするキョヌだったが、実はそんな「彼女」の行動にも理由があったことを知る…。
常に「ぶっ殺されたい?」と脅され、時々強烈パンチやデコピンをもらいつつ、この対決をクリンチとフットワーク(つまり受身)で戦う丸腰キョヌの明日はどっちだ? 体で感じずして恋愛にあらず。頭で考えて恋の理屈をこねくる前に、これを見るべし! (長谷川)
わすれな歌
2002年/タイ/116分
監督:ぺンエーグ・ラッタナルアーン
出演:スパコン・ギッスワーン、シリヤゴーン・ブッカウェート
★カンヌ国際映画祭正式出品作品
水辺に家々が並ぶタイの田舎町。歌うことが大好きなお調子もののペンは村一番の美人サダウに夢中。厳しいサダウの父親の反対を押し切って結婚した二人だったが、サダウが身ごもった矢先ペンが徴兵に取られることに。身重な妻に「君に逢いたい」と毎日手紙を書くペン。が、しかし訓練地に巡業にきた芸能プロダクションの歌謡コンテストで優勝したことから、ペンは軍隊を脱走してバンコクへ向かってしまう。歌手として成功すればサダウを幸せにできると考えたペンだったが世間はそれほど甘いはずもなく、脱走兵としてお尋ね者のため田舎にも帰れない。ある日、代役として舞台に立ち拍手喝采を浴びてチャンスをつかみかけたのだが、それがきっかけでペンの転落人生が始まってしまう!はたしてペンは愛しいサダウと再び会うことができるのか。
ここまであらすじを読むと「お涙頂戴の純愛物?」って思うでしょ。でも違うんです。まずペンの転落のしかたが凄い。絶壁を転がり落ちるような転落ストーリーは「アンラッキー・モンキー」のサブ監督も真っ青のスピード感。でもそれがまったく悲惨ではなく、歌あり、踊りあり、笑いありなんです。ペンのダメ男ぶりも憎めなくて○(マル)。
「アタック・ナンバーハーフ」に続くタイ南国脱力ムービー、この機会に観なきゃ損するかも!?(信澤)