しんゆり映画祭について
2001年は“再生”のミレニアム
―ひとも映画も生まれ変わる―


しんゆり映画祭 実行委員長 
白鳥あかね

「しんゆり映画祭」は7年目の今年、長い間お世話になった日本映画学校の教職員室から独立、あたらしい自分たちの城を持つことができました。プレハブながら冷暖房つき、PC、FAX、コピー機を備え、実行委員のメンバーがいつでも自由にミーティングできる絶好のスペースです。

名付けて「しんゆりシネマ・ハウス」。私たち映画祭に関わる人間すべての夢の城です。その実現には長い道のりがありましたが、誠心誠意ご尽力頂いた川崎市、市民文化室、麻生区役所の関係者の皆様に心より感謝致します。又、昨年までの作業場を提供してくださった“芸術のまちつくり委員会”の皆様にも厚く御礼申し上げます。

シネマ・ハウスでは、オープン以来、今年あらたに参加した30名のボランティアを交え、勤め帰りの会社員、アルバイト帰りの学生さん、家族の夕食の仕度を済ませてきた主婦等々が一堂に会し、映画祭を盛り上げるための準備をすすめてきました。上映作品の選定やフィルムレンタルの交渉、チラシやパンフの作成、広告掲載の依頼、バリアフリー上映のための台本作りや、吹き替え作業の打ち合わせ等々枚挙に暇がありません。それと同時に炎天下、ジュニアワークショップの中学生たちの撮影が進行していきます。

一円のお金にもならない無償の行為なのに、なぜこんなに活き活きとみんな楽しげに打ち込めるのでしょうか?老いも若きも人生の貴重な時間を惜し気もなく注ぎ込めるのでしょうか?
その答えを探すには、「しんゆり映画祭」にボランティア・スタッフとして参加する他ありません。

映画祭の準備が始まって間もなく、一通の手紙が届きました。昨年一家全員で映画祭を観に来て下さった聴覚障害を持つ青年のお母様からで、感謝の言葉と共にボランティア活動の一助にと、心づくしのお金が添えられていたのです。ご時世とは云いながら、大幅に予算を削られてしぼみがちだった私の心に、勇気の灯がともりました。心の底からうれしさがこみ上げ「予算が足りない分は、興行収入や広告収入を増やすよう頑張りましょう!!」とみんなで励まし合いました。

今年のバリアフリー上映はイラン映画の傑作『運動靴と赤い金魚』と、邦画『江分利満氏の優雅な生活』。視覚障害者の方へイヤホーンガイドで副音声やセリフの吹き替えをつけます。この作業には実に多くの労力と時間が必要ですが、スタッフは今、一丸となって熱く燃えています。

2001年の「しんゆり映画祭」のテーマは再生――。1000年の悠久の時の流れが再び廻り来る時、生きとし生ける者も又、蘇ることを願って名付けました。“生まれ変わる”“次の世代に伝える”をテーマに多くの作品を選びました。又、カンヌの観客が総立ちで拍手を贈った『赤い橋の下のぬるい水』(今村昌平監督)と豪華な女優陣の競演が見事な『蝶の棲む家―木曜組曲―』(篠原哲雄監督)が日本初公開されます。その他、“いじめ”にあった女子中学生の立ち直りを、新人らしからぬ確かな演出力で見せる『非・バランス』(冨樫森監督)などの秀作が出揃いました。

どうか今年も又、大勢の観客の皆様に「しんゆり映画祭」にお出かけ頂き、存分に楽しんで下さいますよう念じております。


1995 ●4月、「『文化と芸術のまちづくりイベント』の一環として映画祭を開催したい」との川崎市文化室の協力要請を受け、武重邦夫氏(日本映画学校専務理事、第1〜5回しんゆり映画祭実行委員長)を中心に、映画祭開催にむけての準備が始まる。日本映画学校関係者が企画から運営まで全面協力する。
●川崎市在住の脚本家・山田太一氏の協力のもと、6作品(「異人たちとの夏」「田園に死す」「おとうと」「大誘拐」「黒い雨」「午後の遺言状」)を上映作品として選考。
●10月27〜29日、第1回しんゆり映画祭開催(場所:新百合21ビル、日本映画学校)。テーマは「日本人の家族の原風景」。ゲストに故・淀川長治氏(映画評論家)、新藤兼人氏(映画監督)、今村昌平氏(映画監督)、市原悦子氏(女優)、山田太一氏。
1996 ●5月、公募で集まった21名のボランティアを対象に「市民スタッフ養成講座」を開講。日本映画学校(校長=佐藤忠男氏)の全面協力により、一流の講師陣の指導のもと、「市民が作る市民のための映画祭」体制づくりが行われる。
●11月、今村監督、武重実行委員長が川崎市に提出した「かわさき国際ヤング映像フェスタ」の企画が市のマスタープランに決定。2001年開催を目指し推進会議(シンクタンク)が設けられた。
●10月24〜27日、第2回しんゆり映画祭開催(新百合21ビル、日本映画学校)。「一般映画」部門(テーマは「青春・その輝けるロマン」)と「ヤング映画」部門(テーマは「An epock in cinema ここからはじまり これからはじまる」)「コンピュータアート・マルチメディア作品展」に分かれて行なわれた。市民投票の上位3作品「わが青春に悔いなし」「青い山脈」「瀬戸内少年野球団」や、中国から何平(フー・ピン)監督を招いての「哀戀花火」、親子アニメ劇場として「ドラえもん・のび太の恐竜」など計21作品を上映。基調講演に故・淀川長治氏(映画評論家)、今村昌平監督、佐藤忠男氏(映画評論家)、周防正行監督(「シコふんじゃった」)など。また、「ヤングシネマの可能性と未来」と題して、塚本晋也監督(「フィスト」)、利重剛監督(「BeRLIN」)、仙頭武則プロデューサーらによるシンポジウムも。
1997 ●引き続き20名のボランティアを公募し、前年度からの市民スタッフと併せ35名で運営。作品選定など、企画の段階から市民スタッフが参加。国際映像祭を視野においた市民映画祭としての取り組みが始まる。
●ワーナー・マイカル・シネマズが新百合ヶ丘に完成し、この年から映画祭のメイン会場となる。
●10月8〜12日、第3回しんゆり映画祭開催(ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘、麻生市民館大ホール)。「市民(みんな)で育てよう日本映画の新しい力」をテーマに、「若手監督特集」、佐藤忠男氏による「アジア映画秀作選」、「映画技術講座」などを実施。オープニングイベントとして「月とキャベツ」に主演した山崎まさよし氏(ミュージシャン)のショートライブと、同作品の監督・篠原哲雄氏とのトークを開催。1000席は満席となった。さらに「ひみつの花園」(矢口史靖監督)、「弾丸ランナー」(サブ監督)、「ニャム」(ベトナム/ダンニャット・ミン監督)など計22作品を上映。ゲストはオープニング講演に故・淀川長治氏(映画評論家)、「うなぎ」の今村昌平氏(映画監督)、役所広司氏(俳優)など。この年より、映画のバリアフリーに取り組む。視覚障害者のグループから要請を受け、初めて「うなぎ」を副音声ガイド付で上映。車椅子介助や送迎も実施。また、この年から現在まで続く「ヤングシネマ」「しんゆり名画座」「バリアフリー」の3部門路線が明確になる。
1998 ●50名近いボランティアが新たに参加し、総勢約80名となる。この年から「市民プロデューサー制」を導入。経験を積んだ市民スタッフが各プログラムに一人ずつ専任し、イベントの企画やゲストの交渉、対応など責任を持って総合プロデュースする体制に。
●新百合ケ丘駅周辺の宣伝アートなどを、芸術フェスティバルの「しんゆりアート市」ボランティアと共同で企画・実施。小田急沿線や新百合ケ丘駅周辺の商店・企業、地域の方々の協賛・協力も広がる。
●10月7〜11日、第4回しんゆり映画祭開催(ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘、新百合21ビル)。テーマは「市民(みんな)がつくる市民のお祭り」。「ヤングシネマ」部門はオープニング特別企画「萌の朱雀」でゲストに仙頭直美監督を迎えてトークを行ったほか、「アジア映画秀作選」、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督特集、三池崇史監督を招待しての傑作選(「アンドロメディア」「中国の鳥人」)など。「しんゆり名画座」部門ではオープニングで「カンゾー先生」(ゲスト・今村昌平監督)を上映したほか、「伝説の名画座スペシャル」(「灰とダイヤモンド」ほか)、「映像が語る女性像」(「バベットの晩餐会」ゲスト・女優の岸田今日子さん)などの企画上映を行った。「バリアフリー」部門では「HANA−BI」(ゲスト・俳優の大杉連さん)「ラヂオの時間」(ゲスト・女優の戸田恵子さん)を副音声ガイド付で上映。クロージング特別企画では蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督をゲストに「青春神話」「河」を上映。上映は29作品。
1999 ●2月、ベルリン国際映画祭に市民スタッフ5人が視察。
●4月、「国際ヤング映像フェスティバル」の開催が、川崎市のマスタープランの実施計画「川崎新時代2010プラン 新中期計画 1999-2003」に盛り込まれる。※2001年開催を目指し推進会議(シンクタンク)が設けられ、実行プランが作成されたが、経済不況のためか実行されぬまま現在にいたる。
●市民スタッフは総勢50名。ほか、支援ボランティアも30名を超える。
●しんゆり映画祭のキャラクターとして「シネマウマ」が登場。イラストレーター・沢田としきさんのイラストがメイン・ビジュアルに。
●10月7〜11日、第5回しんゆり映画祭開催(ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘、新百合21ビル)。)。「しんゆり名画座」部門では「音楽と映像のさまざまなかたち」と銘打ち、「シャイン」「バグダッド・カフェ」などを上映。「ヤングシネマ」部門ではコリアンシネマを特集。「あんにょんキムチ」「プルガサリ 伝説の大怪獣」など、バラエティに富むラインナップを揃えた。ゲストに矢口史靖監督(「アドレナリンドライブ」)、グレッグ・パク監督(「ファイティング・グランパ」)、小野善太郎氏(元大井武蔵野館支配人)ほか。「バリアフリー」部門では「鉄道員(ぽっぽや)」(字幕、副音声付)「ライフ・イズ・ビューティフル」(吹き替え・副音声付)を上映。初めて聴覚障害の方への日本語字幕付上映を実施した。
2000 ●新実行委員長に白鳥あかね氏(スクリプター、日本映画学校講師)が就任。
●6月、約20名のボランティアが新たに参加、総勢約50名。
●この年から、地元の中学生が映画を制作し、映画祭当日に上映する「ジュニア映画制作ワークショップ」、麻生小学校校庭で村祭の雰囲気を再現する「野外上映」(「遠い空の向こうに」)の2つの新企画に取り組む。また、小さな子供をもつ親に、ゆっくり映画を楽しんでもらおうと保育付の上映も行なう。
●10月6〜9日、第6回しんゆり映画祭開催(麻生小学校、ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘、新百合21ビル)。オープニング特別企画では「アラビアのロレンス」を完全版で上映。「しんゆり名画座」部門では「旅するシネマロード」と称し、「クンドゥン」「グッバイ・モロッコ」など旅を象徴する映画を上映した。「ヤング/アジア・セレクション」では、テーマを「亜細亜電影新人類」とし、近年の香港作品2本(「アンナ・マデリーナ」「美少年の恋」)や、海外で高い評価を受けた日本作品(「タイムレス メロディ」「どこまでもいこう」「MONDAY」)を上映。ゲストは青木富夫氏(俳優、「生れてはみたけれど」)、須賀大観監督(「ブリスター!」)、サブ監督、大杉漣氏(俳優、「MONDAY」)ほか。新企画「ジュニア映画制作ワークショップ」では今村昌平監督、佐藤忠男氏、寺脇研氏(文部省大臣官房政策課課長・当時)が講評者として来場。クロージング特別上映では中江裕司監督を招待し「ナビィの恋」(副音声・字幕付)を上映。沖縄民謡を交えてのイベントを行った。なお、日本語字幕は、映画祭スタッフが独自に制作した。