「蝶の棲む家─木曜組曲─」

篠原哲雄監督インタビュー編


(写真:左から鈴木プロデューサー、篠原監督、白鳥スクリプター)

注目の篠原監督最新作がクランクアップ!

夢のキャスティング競演 6人の女優たちを撮る
(浅丘ルリ子 原田美枝子 加藤登紀子 鈴木京香 冨田靖子 西田尚美)



しんゆり映画祭にはおなじみの篠原哲雄監督。第3回映画祭('97)で「月とキャベツ」を上映し、主演した山崎まさよしさんのコンサートでは、熱いトークも繰り広げてくれました。第5回('99)では「洗濯機は俺にまかせろ」と監督を囲んだトーク。終わった後も、観客のみなさんやスタッフに取り囲まれて延々1時間も話し込んでくださった、シンシアリーな監督さんです。

その篠原監督の最新作「蝶の棲む家─木曜組曲─」が、このほどクランクアップ。6人の主役級の女優の競演が早くも話題になっている作品です(年内公開予定)。

この篠原組にスクリプターとして参加しているのが、我がしんゆり映画祭の実行委員長・白鳥あかねさん。編集で徹夜らしき日々が続いたあと、「監督がしんゆり映画祭のホームページのインタビューを受けてくださるわよ」という突然の電話。うれしいやら、あわてふためくやらで、「篠原作品は全部観ている」という映画祭スタッフのチバさんと取材にうかがいました。

4月某日、ダビング最終日。場所は、新百合ケ丘から車で20分の日活撮影所のスタジオです。張り詰めた空気の中にも、創りこみ仕上がっていく喜びが伝わってくるダビングルーム。しばらく、映像に音を重ねていくダビング作業を見学させていただき、白鳥さんも一緒にお話をうかがいました。

●「映画は毒気をやらないといけない、と思っていた」
Q/「はつ恋」も「死者の学園祭」も観ましたが、今回の作品は、ずいぶん色が濃くなったという感じがしたんですが。前は、青い色っていうイメージでした。

篠原監督/あー、なるほど、うんうん。

Q/はい。とってもはっきりした、赤とか青とか。作品がそういう内容だからですか、それとも監督が変わったから?

篠原監督/いやー、どうなんですかねえ。たぶん僕の中では、「月とキャベツ」から「はつ恋」までと、それ以降の流れはちょっと違っているんです。「はつ恋」までは、わりと柔らかな映画という気持ちでやってきた。「はつ恋」が終わったあたりから、もうちょっと人と人との絡み方がヘビーな関係性のものをやりたいな、と思い始めて。それで、「張り込み」はビデオですが、サスペンスという意味ではかなりヘビーなものになっているんです。
「木曜組曲」は、そこにまた人間の心理的なサスペンス、つまり感情的な部分で人が人を追いつめたり、いろんなことが暴かれていったりする。一人の女性作家の死をめぐり、5人の女性がその死に様から、ある真実を突き止めようとして人間性があらわれていくという話なので、確かに色を出していこうという意図はあったんですよ。


Q/この作品を選ばれたのは、そういうものを作りたいという気持ちが根底にあったのですか。

篠原監督/うん、そうですね。女性ばかり出てくる映画は珍しいと思うんですが、恋愛っていうのが一切出てこないのがすごく気に入っていて(笑)。

Q/それはなぜですか。

篠原監督/うん、むしろ人間の毒の部分というか。僕の映画ってね、たぶん「はつ恋」まであまり毒がないんですよ。「草の上の仕事」を除いて。でね、もともと映画では毒気をやらないといかんな、と思っていたんで。「張り込み」から、ちょっとちゃんとできているかな、と思っているんですよ。

Q/確かに「草の上の仕事」は笑いの中にちょっと毒があって面白かったです。空間の広いところにちょっとあるという感じ。でも、「木曜組曲」は、狭い中にギュっといっぱい詰まって濃い感じがしました。

●「死の余韻を伝え、引き継ぐ。非常にいい話かもしれない」
篠原監督/そうですね。これは、ある一軒の家を舞台に約2時間、延々と語りっぱなしの映画なので、いかに飽きさせずに観せるかが撮っているときのテーマでした。3日間の話で、最初は非常にゆったりとみんながしゃべっているような日があって、次に事がいろいろ運んで動きだし、また最後に集結していくみたいな。そして一つ謎が解けて次に向かう。
 簡単にいうと、小説家であった浅丘ルリ子さんの死をめぐり、その編集者であった加藤登紀子さんが、“死の余韻”を次の世代に伝えたい、ということなんです。それをもの書きである鈴木京香、冨田靖子、西田尚美と原田美枝子さんの役の四人が引き継いでいく。あるいは意志を引き継いで自分達ももの書きとしてこれからどうなっていくんだろう、というところで、終わる話なんです。
 そういう意味では、ある種、朽ち果てていく感じと、これから拓(ひら)かれていく感じの伝授、そういうのが根底的なテーマになっている。サスペンスといえども非常にいい話かもしれない、ということができると思うんです。

Q/それは、年齢的なことも含めて、今の篠原さんと重なる部分というのはあるんですか。

篠原監督/いやー、それはあんまりないです。むしろ、僕の気持ちは若い方にあるんでしょうが、客観的に撮る側とすれば、一人の人の死に様みたいなことは結構考えて作ったつもりなんです。


Q/女の人ばかりの中に男の方・竹中直人さんが登場しますが・・・。

篠原監督/竹中さんは刑事の役で出ていて、強烈な女たちにちょっと翻弄される役なんです。すごく面白く演ってくれたんですけど。ワンシーンだけなんです。

Q/それにしても豪華キャストですね。監督の希望だったんですか。

篠原監督/この作品は、プロデューサーの鈴木さんの企画で、脚本の大森さんは、長らく鈴木さんと森田芳光さんの映画をなさっている方で、原作と少し匂いを変えてます。豪華なキャスティングもプロデューサーサイドの意向で、僕はそれに乗ったのです。プロデューサーという役割がちゃんと確立されていて、製作するチーム自体のあり方が、すごくよかったと思います。

Q/この作品に取り組まれて、監督の中で手ごたえを感じたことは何ですか。

篠原監督/そうですね。この映画は、撮っていくあいだに徐々に徐々にできていったという感じがあるので、このシーンが見どころというよりも全体を通して観てほしい映画という感じがしています。


Q/苦労されたところは?

篠原監督/苦労ですか。あー、一番苦労したのは、撮る上での些細なことなんですが、五角形のテーブルに浅丘ルリ子さん以外の5人が常に座って食事をしているんですね。つまり、五つの方向から同じものを、芝居をだぶらせて撮っていく。これは、役者さんも同じことを何度もしなければいけないし、すごく大変だったと思うんですね。例えば原田美枝子さんのアップもそのシーンによって意味合いが違うんです。カットごとに、レンズのサイズから距離感も含めて違うし、光の加減などもそのシーンによって全然違うので。細かなところにものすごく苦労したな、苦心したな、と。それは編集でいかようにもできたんですが、だから編集作業が、また大変でした。

白鳥/やり甲斐があったのでは。

篠原監督/はい。

Q/白鳥さんとは、これまでお仕事は?

篠原監督/監督作品としては初めてです。

白鳥/助監督時代からのおつきあいですね。とくに根岸吉太郎監督作品では、何本かご一緒しました。

Q/仕事のコンビネーションはいかがでしたか。

篠原監督/コンビといえば、森田さんが現場に来た時、「いいツーショットだね」と言ってくれたのがすごくうれしかったんですよ(笑)。白鳥さんは、ほんとうに頼りになりました。

Q/最後に、ホームページをご覧になったみなさんへメッセージを。

篠原監督/僕の映画の中ではきっと、今までとは違う色合いが出ていると思いますので・・・。とにかく6人の女優さんたちの競演が見どころです。持ち味を生かしていただいたと思います。

Q/ありがとうございました。完成が楽しみです。

「蝶の棲む家ー木曜組曲ー
 企画/鈴木光
 原作/恩田陸 「木曜組曲」(徳間書店刊)
 脚本/大森寿美男
 監督/篠原哲雄
 製作/(株)光和インターナショナル


「一度お会いしたんですが覚えていますか?」
こう聞こうと思っていたのに、監督が覚えていてくれて、小さな幸せにひたる。さすが、頭いっつもフル回転お仕事の人は違う!と思いました。

お話を聞く前に、ダビングのテスト、本テストを見学。スタジオ内の様子を伝えなくては!と、映画の中身ではなく回りを注意深く…と思いつつ、スクリーンに出てくる女優さん方の凄いこと! とっても豪華な顔ぶれで、しかも、クライマックスシーン! 幸か不幸か結末だけ見てしまったのですが、話の流れがわからないだけ、なおさら俳優さんたちの演技に目を奪われてしまいました。

厳しい表情の篠原監督にはまだ、慣れません。素敵なんだけど。できあがった映画を持って、しんゆりに来てくれた時の監督と、まだ未完成の映画の前に座っている監督とは、やはり眼差しが違いました。

一つ一つの音に対しても演出がある。いる音いらない音と決めていく。一回テストを終えるごとに、どこか音の直しがはいる。当然の事だけど、本当に細かく見て、聴いていて、監督とはどこにも気を抜けない職業なんだなあと、改めて思いました。

今回の作品の見所は? との質問に、とても言葉を選んで(言葉がでてこないーと悩みながら)答えてくださった監督の素敵さにクラクラした私でした。

見所は、「出ている俳優さんたちの競演が見所!」だそうです。

監督はじめ、スタッフのみなさんにはお世話になりありがとうございました。

次回は、同作品の録音を担当された大御所・橋本文雄さんのインタビューをお届けします。(N)

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