赤い橋の下のぬるい水

今村組制作報告第二弾:編集編




編集作業に映画の真髄を見た!

今年の冬はやけに寒い。大寒が過ぎても益々寒くなるので自然に動作が鈍くなる。
一月も終わりかけた日、京王線調布駅から15分ばかり離れた東京現像所に向かう。
私がこれから訪ねようとする岡安編集室が現像所の建物の中に在るからだ。

東京現像所に入ると構内はがらんと静まり人気がない。
映画が盛んだった頃は、この通路も映画関係者で賑わっていたのだろうなと少し感傷的になる。一番奥にある編集棟の3階にある岡安編集室を訪ねると、編集助手の川崎さんが「赤い橋の下」の編集作業が行われている部屋に案内してくれた。

編集室はおおよそ10畳ぐらいの広さか、窓にカーテンが引かれ薄暗い。
タバコの煙で濛々としている室内に目を凝らすと、今村昌平監督を中心に助監督やスクリプター、それに岡安肇さんの編集チームが小さなビューアーに写る画像を食い入るように見つめている。
今村監督も誰も言葉を発しない。 余りの緊張感に身が縮む思いだ。


画面が変わり、役所広司がバイクで清水美紗を追いかけるシーンになった処で岡安さんが画像を止めて振り返る。 監督が何か言ったようだが私には聞こえない。
「もう少し切りますかね・・・」 岡安さんは頷きフィルムをチェックし助手さんに指示する。 二人の助手さんがフィルムを切るのを見て、 岡安さんは次のシーンを回し始しめる。 今度は役所広司がガダルカナル・タカのやくざに殴り掛かる長い格闘シーンだ。
このシーンは一つ一つのカットが長回しされているので切るのは難しそうだ。
岡安さんは何度も掛け直し、 今村監督とボソボソ小声で相談する。
「まあ、 そのままにしておくか・・・」 今度は聞こえる声で云うと、監督はタバコ に火を付け休憩になった。

編集ラッシュから30日余り。岡安さんの話では、こうして毎日編集を重ねながら 25分のフィルムを削ぎ落としたのだという。今村監督は完成尺を2時間10分弱 と考えているが、そのためには後5、6分切らねばならないらしい。
前回のインタビューで監督は編集が楽しいと話しておられたが、 こうした作業を見ていると本当に楽しいのだろうかと疑問が湧く。
その点について聞いたところ、 監督は次のように話してくれた。
「1分のカット(ショット)を撮るのに一日も二日も掛かる撮影現場の苦労を思うと辛 くなるが、編集のノミを振るわなければフィルムに生命を吹き込めない。 そこが映画の難しいところであり、 楽しいところかな・・・」
う〜ん、 やっぱり映画って奥深いんだなあ。


一日の作業が終わり、 今村監督が帰られた後で岡安さんに「今村組」の編集について色々お話しを伺った。
岡安さんはカンヌグランプリを受賞した 「楢山節考」 や 「うなぎ」 の編集者であり、「女衒」「黒い雨」 「カンゾー先生」 のほか 「未帰還兵」「からゆきさん」 など一連の今村ドキュメンタリーを担当してきた人である。
岡安さんによれば、今回の編集で一番多くカットしたのは漁船で漁をする場面だという。映画の中半に多く出てくる役所広司の仕事の場面だが、ドラマの葛藤というより状況を説明する場面なので少々カットしても支障はない。むしろ、切ることにより全体のドラマの流れが良くなったという。
また、脚本に書かれてなく撮影現場で書き足された部分も多くがカット候補になったのだそうだ。 これは映画ではよくあることで、撮影現場のリアリテイーと脚本上のリアリテイーの葛藤が生じた場合、念のために二つのバージョンを撮影しておくのだそうだ。季節感や気象条件は撮り直しが効かないからね、 と岡安さんは言う。

「赤い橋の下・・」の編集作業には、まだ手付かずの部分が残っている。
魚群が湾内を埋めるラストシーンのCGの作画が遅れているからだ。
出来上がったCG画像を加えたところで再び編集作業を行い、最後の尺詰めをして行くのである。まだまだ、今村組の編集は終わりそうもない。
最後に、今村監督の仕事で一番難しいのは何かと聞いてみた。
しばらく考えた後、 岡安さんはポツリと言った。
「今村さんの映画にある独特な生理・・・そこへ持ち込む編集かな・・・」
うう〜〜ん、 やっぱり映画の編集も奥深いんだなあ・・・・と思い知らされました。

岡安編集室の濛々たるタバコの煙の中で繰り広げられる活動屋たちのドラマ。
苦労して撮影したものを切り捨てて行く作業は壮絶なものです。
今村組の編集はこれからが正念場、 2月いっぱいまで続きそうです。
岡安編集室の皆さん、 ありがとうございました。

映画制作NEWS「今村組」 次回は 「音楽とダビング編」 をお楽しみに・・・。 (S)
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