真夏の夜の夢

映画祭と私

山本陽介


2002年8月31日しんゆり映画祭野外上映会。
私は今年初めてしんゆり映画祭のスタッフとして参加した。そして野外上映会というものも初の体験だった。21歳の私にとって外で映画を観るという感覚は今ひとつピンと来なかった。野外上映会では色々な模擬店を出して、飲み物や食べ物を売る。昨年まではスタッフが全ての店をやっていたそうだが、今年は近辺の飲食店に参加を呼びかけ、もっと盛り上げようということになった。

8月20日、野外上映会の担当プロデューサーから全スタッフにメールが届く。内容は模擬店出店の応募数がとても少ないので、我々スタッフに模擬店に関するアイディアを募集するというものだった。いろいろ考えて、私は飲食店ではなく遊びの店の案を3つ持って上映会1週間前の会議に出席した。しかしこの時点で私は無責任にも提案はしても自分でやるつもりはなかったのだ。会議が始まる前にプロデューサーに先の3つの案を提案してみたところなかなかいい反応だったが、どれをやるにしても当日までには時間がなかった。そして会議が始まった。

結局スタッフも色々な店をやることになり、私が提案した案もチラッと話題に出始めた。するとその話題がみるみる盛り上がって、プロデューサーは「射的なんかどうだ?」などと私に話しかける。先に述べたように私は自分でやるつもりがなかったので、「いいですね。」と言いながらも、心の中では「僕はやるつもりはないですけど・・・」とずるい考えだった。しかしそんな甘い話になるわけがなく、結局私は何かのゲーム屋をやることになった。何かのゲーム屋というのは、要するに何の店にするか決まっていないということである。景品についてはスタッフの皆さんがいろいろ提供してくれることにはなった。しかしゲームの店となると、内容をよほど面白いものにしないとお客さんは集まらず、そこだけしらけてしまう。担当が私に決まった瞬間、自分の店だけ誰もお客さんが来ていない風景が頭を過ぎった。

準備期間は1週間しかない。とにかく時間がなかった。野外上映会は小学校のグランドを借りて行われる。ということは小学生がたくさん来ることが予想される。そして小学生よりも小さい子供が来ることも予想すれば、安全でかつ楽しくて誰でも気軽に遊べるものにしなくてはならない。これらを色々と考えていると、さっぱりいい案が思い浮かばない。しかしタイムリミットは刻一刻と迫っていた…

ところがある日の夜、焦っていても仕様がないから寝ようと思ったときにゲームが思いついたのだ。ゲームの内容は、小さなバケツ9個を3×3に並べ、ゴムボールを投げてもらってビンゴをするというものだ。斜めにボールが入ってビンゴになれば1等、縦に1列だと2等…というようにルールを決め、1回100円でボール5個を投げられるようにした。上映会前日、プロデューサーに会ったのでゲームの内容を説明した。「それは流行るよ!」と言ってくれたが、私の中では不安は消えなかった。

上映会当日は雲ひとつない晴天だった。そして暑い。準備の時間は、常に何か飲み物を飲んでいないと脱水症状を起こしそうな勢いだった。店のことなど半ばヤケクソになっている。学校の友人が手伝いに来てくれた。お客さんが少なくてしらけてもそれを分かち合えると思って少し気分が楽になった。午後5時営業開始。営業時間は映画の上映が始まるまでの2時間である。最初に来たお客さんは、案の定小学生のグループだった。彼らはとりあえず様子をうかがっているだけでなかなかやろうとはしない。「練習させろ!」小学生は意外と口が悪かった…売り言葉に買い言葉ではないが、「そんなもんねぇよ!」と思わず口にしてしまった。渋々一人が100円を払ってやってくれた。すると次々とその仲間もやり始める。失敗すると悔しいのか、「もう1回!」と言って100円を払う。私の店が周りよりも賑わっているので、他のお客さんも寄ってくる。気づけば列をつくって順番を待つほどになった。「なんでそんな強く投げるの!下から優しく投げなさいよ!」と、子供のゲームに向きになるお母さんや、持ってきた小遣いを全て私の店で使ってしまった子もいた。

一時はどうなることかと思ったゲーム屋だが、大成功で終わることができた。そしてこの感じは意外と病みつきになってしまい、来てくれた人が楽しんでくれたのを思い出すと、「来年は何をしようか…」などと既に考え始めている。しんゆり映画祭ではこういった手作りで行うところに人と人とのふれあいのあたたかさを感じられる。運営側とお客さんという関係ではなく、共にしんゆり映画祭をつくっていくということこそがこの映画祭のスピリッツであるように思える上映会だった。

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