映画館通り
                                  
杣澤 佳枝

私の出身地である岩手県盛岡市。そこには"映画館通り"と呼ばれるところがある。その名の通り、盛岡市内の映画館14館がそこに全て集まっているという、全国でも珍しい通りらしい。映画が観たいと思ったら、そこを歩けば、今何の映画を何時から上映しているのかがすぐにわかる。端から端までゆっくり歩いても10分もかからずに、市内でやっている全ての映画がわかるのだから、映画好きには楽チンな場所だ。

私が映画館で初めて映画を観たのは(多分)小学生の時だ。家族で「サウンド・オブ・ミュージック」を観に行ったのが一番古い記憶だと思う。その時の記憶はほとんどなく、冒頭でジュリー・アンドリュースが歌うシーンがやたらと明るくて綺麗だったのと、行きか帰りかで食べた月見そばがおいしかったことくらいしか覚えていない。もちろん"映画館通り"という名前すら知らなかったはずだ。
当然、そこが全国でも珍しい場所だなんて知るはずもない。

それを初めて知ったのは、高校生の時だった。当時、姉が大学生で仙台にいたので、遊びに行って3日目くらいに、明日2人で映画でも観ようかということになった。「何が観たい?」と聞かれて、私は「行ってから、時間の合うのにしようよ」と言った。盛岡ではこれで万事OK。10時くらいに映画館通りに着けば、ちょっと時間を潰すか(その時は近くにある大きい本屋へ行く)全く待たずに大抵の映画は観られるのだ。

でも仙台ではそうはいかなかった。
「あんたね、仙台は盛岡みたいに映画館が近くにあるわけじゃないんだよ」
「へ?」
よくよく聞くと、仙台では映画館と映画館が離れているらしい。いや、離れているといっても、電車やバスに乗らなければいけないとか、歩いて30分もかかるということではないが、盛岡に比べれば遠い。5分歩かないと次の映画館に行けないなんて、考えられない事だったのだ。

次の日、実際に映画を観に行った。本当に、映画館は一つしかない。周りを見ても、映画館の看板はない。仙台の方が盛岡より大きい都市なのに。映画館だって多くあるはずなのに。
衝撃だった。
ああ、盛岡って、映画館通りって、特殊な所なんだ、と思ったのを覚えている。(ちなみにこの時観たのは長渕剛主演の「オルゴール」。何故これを観たのかは全く覚えていない)

上京してからは、ますますその思いは強くなった。今映画を観ようと思ったら、まずどこで何の映画を上映していて、その映画館に行くには何線の何駅で降りて何口から出てああ行ってこう行って、何時から始まるから何時に家を出て・・・、とやらなきゃいけないのだから、面倒な事このうえない。一時期は、帰省して盛岡にいる方が映画を観に行く回数は多かったほどである。
今は新百合にワーナーマイカルができて、盛岡にいた頃のように観に行く分には楽だけれど、でもやっぱり私にとっては、盛岡という街の映画館通りに映画を観に行くのがしっくりくる。なにをこだわっているんだと自分でも思うけれど、このこだわりは持っていてもいいんじゃないかなと最近思うようになった。「自分の生まれ育った街を愛する気持ち」だから。

同じように、しんゆり映画祭のスタッフも新百合丘を愛しているんだろう。そして、映画も好きだから"しんゆり映画祭"を、毎年大変な思いをしながらやっているんだろう。 "好き"っていう思いは凄いものだ。夢を現実に、不可能を可能に変えてしまうパワーがある。
映画が好きっていうだけで、映画館通りに行ってたあの頃は、まさか映画学校に入って映画関係の仕事をするなんて、思ってもみなかった。
思い付いたらやってみるものだ。なにかができるかもしれない。

ところで、映画館通りでは「みちのく国際ミステリー映画祭」を97年から毎年開催しているらしい。毎年毎年、行きたいのだけれど休みは取れず・・・。でも近い内に絶対観に行ってやる!
岩手県盛岡市、映画館通り。私が映画と出会った場所である。

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