ヒーローに憧れて

坂田未希子

哀川翔・主演100本記念映画『ゼブラーマン』が公開された。
子どもの頃、テレビで見ていたヒーローもの。そんなヒーロー「ゼブラーマン」に大人になっても憧れ続けている男が、遂に自らゼブラーマンとなって地球を救う!というお話である。

「大人になっても夢を持ち続ける」というと聞こえはいいが、哀川翔演じる主人公は、教師でありながら授業中にゼブラーマンの落書きをしたり、ゼブラーマンの衣装を作って夜な夜なコスプレを楽しんだりしているような男だ。ちっともかっこよくないし、身近にこんな人がいたらちょっとヒクだろう。いや、かなり。まぁもっとも、こんなヤツいないよなぁ。と思ったら、いた。思い出した。

高校1年生の時、同じクラスだったA君は仮面ライダーに憧れていた。
「オレは仮面ライダーになるんだ!」
A君はいつだって真剣だった。仮面ライダーになるため、日々のトレーニングも欠かさない。毎日、自転車で山を越えて通学し、両手両足首には重りの付いたバンドを装着。誕生日には「変身ベルト」を買ってもらったと、友人たちに嬉しそうに話していた。

これが小学生だったらともかく、高校生である。どうしたって仲のいい友だち以外からは「ちょっと風変わりな人」と見られていた。私自身、この人は大丈夫なのだろうかと思っていた。

そんなA君が人気者になるチャンスがやってきた。

秋の文化祭で私のクラスは「ファッションショー」をやることになった。
なんだって「ファッションショー」か。たしか、担任教師のアイディアだったと思う。今考えると、どうしてそんなことになってしまったのか首を傾げるばかりだが、当時はなんだかものすごく面白そうな気がして、私はもちろん(?)、女の子はノリノリで取り組んでいた。

ファッションショーといっても普通のものとは違い、絵本などに出てくる主人公たちが登場するというもの。例えば「白雪姫」とか「シンデレラ」とか。女の子はともかく、男の子にとってそれが面白いものかどうかちょっと考えればわかりそうなものだが、女の子たちの勢いは止まらなかった。当然、男子生徒の多くが放棄状態。そりゃそうだろう。ようやく青臭い中坊から高校生になったっていうのに、王子様なんてやってられるかっ!てなものである。

そんな中、A君とその仲間たちは好意的に参加してくれていた(ように思う)。私たちのくだらないコント(!)にも文句も言わず付き合ってくれた。その時の私たちは仮面ライダーに憧れるA君と同じ気持ちだったのかもしれない。だから、A君が「仮面ライダーのショーをやりたい」と言った時も、そりゃあもう、どうぞどうぞ!とやってもらうことになった。

文化祭当日。思いの外、お客さんは大入り満員で受けもよかった。出演をボイコットをした男子生徒も多かったが、なんとか無事に2回のショーを行うことができた。A君のライダーショーも盛り上がっていたようだった。

「仮面ライダーに会いたい!」
小学生の男の子が2人、興奮してやってきたのは後かたづけをしているときだった。慌てて変身ベルトと衣装を付けたA君が登場すると、子どもたちは目を輝かせて喜んでいた。A君も嬉々としてライダーキックや変身ポーズなどをきめていた。満足そうに帰ってゆく子どもたちを見送るA君の姿は、ヒーローそのものだった。

彼は今どうしているだろう。
私の知る限り、最近のイケ面ライダーたちの中にA君はいない。
いや、違う。彼はそんなライダーの一人になりたかったわけではなく、本物の「仮面ライダー」になりたかったはずだ。「ゼブラーマン」に憧れる主人公のように。

A君は『ゼブラーマン』を見るだろうか。
もしも子どもがいるなら、一緒に映画を観てあの頃の話をしてほしい。
「パパも昔、仮面ライダーに憧れていてね…」と。

> KAWASAKIしんゆり映画祭TOP > シネマウマエッセイTOP